触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
石かと思って吐き出そうとしても
舌が僕の口を犯してそれを許さない
頭痛と舌に塞がれた息苦しさで吐きそうになる
そのうち、その石が甘い飴であることに気がつく
その甘さに驚いて脳は痛みを忘れる
代わりにだんだん気分が浮かんでくる
ふわふわと
「頭痛は良くなりましたか?」
キスが止んで桃屋が呟く
僕は浮ついた足元に揺られて桃屋の肩に頭を埋める
「…ん…」
何故だろう
この甘さが心地よくて
いつまでも浸っていたくなる
さっきまで何を考えていたのか思い出せない
今は、甘い桃屋の香りしか頭にない
ここはまるで天国だった
ずっとこうして甘い香りに浸かっていたい
ぽんと肩にもたれた頭に大きい手が置かれた
「この飴は嫌いですか?」
ああ、優しい声
あの人みたいな
…あの人って誰?どーでもいいけど
「…うん、好き…」
この声も手も
「それは良かったです」
その手が頭を撫でながら耳におりて
くすぐった
「…んん」
は、と熱い息が漏れた
いつのまにか体温が上がっている
「帰りましょう、体が熱いですよ」
手が離れてしまう
体も引き剥がされてしまう
寂しい
だれか
触っていてほしい
軽く押しのけられた手を掴んで
肩に頭を乗せた
額が肩に晴れた途端、安心感で包まれる
はあ、と心が息を吸う
「…旦那様」
この子供は確かに依存し始めていた。
何がきっかけになっているのかわからないが、
突然頭が痛み出すらしい
そして飴をやると痛みは落ち着いて
こんな風に大人しく、眠たそうな目をする
「…」
帰ろうと言ったのに、また手を掴んで
肩に頭を乗せている
その手や額から伝わる温度が高い
手は私の背中へ移って頼りなく抱きついてくる
顔を肩に乗せられているのでどんな表情なのかわからないが
その手が、行動に反してとても臆病に震えているのと
恋しそうに漏れる息で
どうしてもまた思ってしまった
なんて弱い生き物なんだろう
きっとここで突き放せば、
突き放されたまま飛んでいって
粉々に砕けて戻らないんだろう
そんな儚さ、脆さに情をほだされて
愛おしくさえ感じてしまった
それに、こんな風に自分から体を寄せるなんてことは初めてで
肩に乗った頭に繋がる首の筋や
肩の骨ばった男の体に
なぜかとても煽られた