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触って、七瀬。ー青い冬ー

第20章 歪形の愛執



やはり僕らは誰かに拘束されたいのだと思う

そして従っていたいのだと思う

何かの責任を背負うよりも

他人を責める方がうんと楽で楽しい

僕は自分という名の主人を元から失っていて

気がつけば大人の言うことを素直に聞いて

一度も彼らに吠えなかった

そうして震える僕にその目がまた笑いかけた

「飛んで火にいる、とはこのことですね」


ゲーム開始はその言葉が合図だった

するりと蛇が這うように静かに、
桃屋の手は腿に置かれる

「…」

たったその動きだけに全神経が奮い立たせられるようだった


手は腰に移り、背中側へ回る


背骨の根元を掴まれたようだ


「っ」

声が喉から溢れそうになった


どうも腰のあたりを触られるのに慣れなくて
あの飴を舐めた後は特に、腰の周りが痺れる


痺れは甘く、震えに変わって脳を麻痺させる

熱い息を抑えようとして手の甲で口を押さえる

それでも


「ここ、好きですよね」


囁く声は頭の中に大音量で響いた

ここ、と言われて感じた腰の奥の熱い場所の脈

そこを突き上げられるあの感覚を体が欲していて

その熱い脈がどんどん強くなる

もし今そこに触れられたら、と想像するだけで

ゾクゾクと駆け上る絶頂感

「ぁ…、は」


無数の筆で擽られているような
むず痒くて柔らかく、不確かな快感

「私も早くここに直接触ってしまいたい」

耳元に甘い甘い誘惑が

しゅる、と舌が耳を犯して

頭はまた制御を失った

「はや…く、うう」

とん、と指が腰を叩く

揺れた骨の奥にある核に届く振動

「っあ、ああっ、あ」


シャラ、シャラ

この音がなんの音かなんて知りやしないが
今は目の前に吊り下げられた餌に夢中

誰が来ようと気がつかない

悪魔が味をしめて首を傾げた

「見つかったみたいですよ」

確定した敗北にも何の興味もない

「はやく、はやく…」

泣いてせがむ子供には優しく諭すのが良い

「大きな声でお願いしてくださいますか?
来訪者にも聞こえるように」

目を潤ませて、声を震わせて
振り絞って出した声

「はやく…い、れて…」

その目に見つめられて私は思わず笑みを浮かべる

これだから人間は愛おしいのだ


「あなたの負け」


唇に深く唇を合わせた時、扉は開く



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