触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
その制服に加え、
その時の彼の顔はとても印象深いものだった
強い眼光はまるで全てを見透かしているようで
自分のような人間ならばずっと目を合わせていたら気がおかしくなるのが当然だった
ただ私の場合はその目を観察し続けた
全て吸い込む黒い瞳はきっと絵の具のように
たった一つの視線で周りも黒く染めていくのだろう
「私は、まあ…そんなものです」
自分が何者なのかわからない
しゃがみこみ、倒れ込んだ七瀬夕紀の体を起こして
ソファに寝かせた
「あなたは…何の御用で?」
七瀬夕紀は眠っているようだった
綺麗な顔で静かに息をしていた
これは人形だと言われても信じてしまうかもしれないほどの秀麗さで
やはりその表情はいつまで見つめていても飽きない
床に散らばったガラスの破片をローファーで踏み
つけ、ぎしりぎしりと音を立てながら
長身の男子高校生はこちらに近づいてきた
彼の周りだけに冬が訪れているようだった
踏まれるガラス片は雪のように輝いた
「七瀬とはどんなご関係ですか?」
やけに大人びて見えた。
その声や話し方
作っていると思わせない笑顔や
抑揚のついた愛想のいい言葉
大勢の見知らぬ人々の間を何年も縫って、
沢山の人の間で揉まれてきたような
質問に答えずに質問で返されたことにも気がつかないほどだった。
「仕事仲間と言いましょうか」
答えると、彼は柔らかな笑顔を消した
「仕事仲間…へえ」
へえ、といった声は冷たく凍り付いていた
氷柱のように皮膚に刺さる
「なああんた、どんな手使って七瀬にモデルなんか
やらせたんだ」