触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
高校生の目は恐ろしく黒かった
「金か」
「…まさか、彼は元々」
「あんただよ。手前は金が欲しくて七瀬夕紀を利用してんのかって聞いてんだよ」
面倒な子供だった。
色々な力が有り余っているようで
冷めているように見える目の
その奥にあるのは
七瀬夕紀に対する…どんな思いか
それをかき乱してしまったなら私は
かなり面倒なことに巻き込まれてしまいそうだ
こんな風に胸ぐらを掴まれてまでも
何かを貫き通そうとは思わない
しかし
七瀬夕紀に興味を持ってしまったことに
取り戻せない失った諸々のものに
今更後悔しても何も残らない
「…離して頂けますか?」
私は冷めているのだろうか
何も感じなくなっているのだろうか
こんな風に誰かに摑みかかるほどの
怒りや悲しみを持ったことはない
「いや、最初から全部、
事の経緯を聞くまで離さない」
近づいた相手のワイシャツに
内側のジャージのラインが透けていた
やはり、面倒な相手だった
「そのお願いにはお応え出来ません。
高梨…伊織さん?」
高梨伊織、という透けた文字に助けられた
…と同時に、更に面倒になった
「…聞いてるのか、七瀬から」
高梨伊織は私を解放した
というより、その手から力が消えた
「はい、伺っていますよ。
随分親しい仲だったんですね?
彼は私のことを間違えてあなたの名前で呼んだりするんです」
実際には、存在そのものをこの高梨伊織に重ねられていたのだろうが
高梨伊織は初めて私の言葉に耳を傾けたようだった
「しかし、そういう時はいつも彼は体調を崩してしまって。今もそうですが」
普段なら面倒な子供の相手はしない
出来るだけ接触を避けて子供が飽きるのを待つだけだ
しかし今は、出来るだけ早く遠ざけたかった
突き放して近づいてこないように線を引いて
「つまりあなたのことを思い出すと彼は調子を崩してしまうのではないでしょうか…
あなた方二人がどれだけ辛い思いをされたのかは
存じませんが」
実際、私は何も知らない
七瀬夕紀の言っていた高梨という人物が
本当にこの高校生なのかもわからない
それでも高梨伊織が一歩後ずさりした
花びらを一つ踏みつけて
「あなたこそどんな酷いことを彼にしたんです?」
高梨伊織は俯いた
「俺は…七瀬を守りたかっただけで」