触って、七瀬。ー青い冬ー
第4章 仮面の家族
「お前が高梨といるのを見て我慢できなくなった。高梨から離れさせないとと思った」
「でも、やっぱりそれはやってはいけないことで、お前をまた傷つけた。だから、今日、本当のことを言って、謝ろうと思った。
…今後、もうお前には近づかないから」
「最後に」
香田は瞼を揺らした。
「一度だけ」
香田の表情は、初めて見る、悲しい表情だった。僕はそれがどんな気持ちかよく分かった。
僕は高梨と思いが通じることはないだろう。
香田は、僕と両想いになることはない。
それでも好きな気持ちは変わらない。
わかっていても、嫌いになどなれない。
「…それで、お前は満足なの」
「これで終わりにする」
香田は、僕の眼鏡を取った。
「雪、ついてたから」
僕は、白い息を吐いた。
香田は僕の首に手のひらをかけた。
「待って」
香田は僕を見下ろした。
「やっぱり嘘だろ」
「嘘じゃない」
香田は堅い表情のまま言った。
「じゃあ、なんでいじめたんだよ」
「だから、好きだから」
「意味わかんねぇ」
「お前にはわかんねぇよ」
香田は眉を寄せて言った。
「は…」
香田は僕にキスをした。
周りが僕を見ていた。
おかしいと思うだろ。男同士で。
僕もおかしいと思う。
そもそもこいつのこと好きじゃないし。
でも、全部、これで終わりだから。
香田はそう言った。
どこにも保証なんてないのに、安心した。
だから、この瞬間だけは許してやった。
「ん…」
長いな、と思って香田を押し返した。
香田は中々離れなかった。
「っはぁっ、んん!」
一瞬離れたと思ったら、またキスをした。
なんでこうなった?
僕はいじめられっ子で、こいつはいじめっ子だったのに。
「んんん!」
舌が入ってきて、香田の股間を蹴った。
「いってっ!」
「気持ち悪りぃんだよ馬鹿か!」
「最後の嫌がらせ」
香田が馬鹿にしたように言って、僕はああ、本当に終わるんだと思った。
僕は眼鏡を受け取って、背を向けた。
もう、苦しむことはない。
高梨にも、そう言える。
僕は過去の呪縛から解放されたのだ。
…と思ってた。
雪はまだ降り止みそうもなかった。