触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
「次に七瀬が俺のことで何か言ったらそれを渡してやってほしい。それ以外はもう関わらないから…
って、伝えるかどうかはあんたに任せるけど」
渡された飴玉の包みには、パンダが描かれていた
何故、託すのがこんな飴なのだろうか
《あめだま》と子供っぽいフォントが並んでいる
「なるほど、考えておきましょう」
高梨伊織は
ぎ、と歯を鳴らして私を睨んだ
「一応言っとくけど、信用して任せてるんじゃありませんから。七瀬があなたに頼ってるみたいだからその意思を尊重してるだけです、今は」
扉から部屋を出ようとした高梨伊織に声をかけた
「わかります。こちらとしてもあなたのような方に信用されては困りますからね。この飴も何かが仕込まれているかもしれないですし…やはり、渡すのはやめておきます」
飴は床に落とし、靴の踵で踏みつけた
小さい破裂音と砕ける音は無残に響いていた
「これで彼があなたを思い出すことはないでしょう。この飴が何を意味するのか分かりませんが…
本当に関わらないという意志があるなら、こんなものは不要です」
高梨伊織は踏み潰された床の上の飴を見つめた
「…」
「どうぞ、お帰り下さい」
扉を閉めようとすると、手が隙間に入って止めた。
隙間から見えた目が殺意を露わにして私に標準を定めていた。
「次会ったらぶっ殺す」
…次、会うつもりか?
高梨伊織はすぐに笑顔を作った
「じゃあ、失礼します」
本当に、
眼力だけで殺されてもおかしくないと思った。
……
「花火、見たかったなー!なあ、高梨!」
三刀屋がセミよりうるさく騒いでいた。
夏休みが終わったと言うのに、
俺には何も思い出が残っていなかった。
花火大会がやっている間は店にでたりベッドでどこかの誰かと寝ていたりで、特に夏休みらしいことはしなかった。
「…花火?まだどっかしらでやってんじゃねえの?知らねえけど」
「しけた高校生だなあ!高3だぞ!最後の夏だったんだぞ!青春のせの字もないっつーのはなあ」
セックスのセの字なら数えきれないほどなんだが…
「いや、でも夏休み前よりはマシだよお前。
ちょっと威圧感薄まった」
三刀屋は慰めるように言った。
七瀬が高校に来なくなってからもう、
…何ヶ月だろう
「威圧感か…」