触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
七瀬と離れてから長い時間が経って、
七瀬がいないことに慣れてきたのだろうか
「まあ、せっかくだし明日の文化祭くらいは楽しもうぜ!最後のビッグイベントだろ?」
クラスは文化祭を前に浮き足立っていた
実行委員だけは仕切り役を嫌々やっているが、
他の生徒は遊ぶことしか考えずに事務的作業にはなんの協力もしていない
俺も多少ステージ発表に参加する程度で、
協力的ではなかった
三刀屋はやけに祭り事に敏感で騒ぐ口実があれば快く便乗して騒ぎ、暴れる奴だった。
その代わり、準備にも積極的に参加している。
今も椅子の上に立ってクラスの壁に風船を貼っている。
「…だな」
こんなに怠惰で消極的な夏は初めてだった
高校生だからといって、
青春を謳歌できる保証などどこにもないのに
せめて青春を謳歌するつもりなら
もっと積極的に動けばいいものを、
何か小さな傷が増えるのを怖がって
動けずにいる
そもそも俺は普通の高校生とはかけ離れていっている気がする。
普通はもっとこう、婚約だのなんだの言わないで
ふつーに付き合って恋愛ごっこして
ひと時の生ぬるい感情に浸って…
…婚約?
「…あああ!」
放課後の教室に声が響いた
隅では文化祭に向けた飾り付けをする女子が驚いた顔でこちらを見ていた。
「な、なになになに!?どしたの高梨くん!」
三刀屋が椅子に立ったまま食いついたが、これは言うべきなのか…
「今日、七瀬の婚約記念…パーティー…」
「七瀬のこんにゃく支援ぱー…???何だそれ」
「…耳馬鹿すぎか」
「は?え何?え、蒟蒻が何?」
「悪い、ちょっと今日用事あるから帰るわ
あと頑張って」
そうだ
俺は積極的に
青春に別れを告げに行かなければ
「え?いやいや準備は!?文化祭の準備ー!」
机の中の物を鞄に詰め込んだ
「明日やる!」
立ち上がって教室を飛び出す
「高梨ーーー!!!」
走って、走って
階段の踊り場で転びかけながら
「いや、明日が文化祭だっっ!…つーのに」
三刀屋の呼びかけも聞かないまま
「3、2、1、おめでとうございまーす!!」
ぱあん、と銃声に似た爆発音
いや、花火に似た…
「えー、本日は白鷺サキ様と七瀬夕紀様のご婚約を祝う会ということでお集まり頂きまして
大変ありがとうございます」