触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
別に、祝われても…
僕とサキちゃんは丸いステージの上に座っていた。
割と高くて、落ちたら大怪我しそうな程だ
「ごめんね、お母さんがやるって煩くて」
「ううん、いいよ全然」
サキちゃんもなんだか苦い顔だった。
そりゃあ、《とりあえず婚》を祝われてもな…
しかし、祝宴といっても名ばかりで、
実際は僕と白鷺家と、そこに癒着する白塔組、
その他諸々の怪しげな組織のお偉いさん達が集まって近況報告をするような顔合わせの場だった。
人が多分1000人近くいて、その一人一人が僕たちの方を見上げて値踏みしているみたいだった
「彼はこの間雑誌に載っていましたよ」
「ああ、えっと確か」
「螢光出版社の雑誌ですよ。あそこの社長も今日来てるんじゃないかな」
「いやあ、あの人はこないだろうよ。ヤクザ嫌いで立花とも関係悪いらしい」
「ああ、そういえばあの出版社のビルって赤西組のビルだったな」
「赤西…ああ、今回の婚約騒動で抗争になった」
「ていうか、七瀬夕紀って子が赤西側だったんすよ。ほら、葉山秋人っていたでしょ白塔の幹部に。
あの人が七瀬夕紀と赤西の頭のピアノ教師やってて、そこから赤西の方と内通してたっぽいですよ」
「なんだなんだ?複雑な話はわっかんねえなあ」
色んな人が色んな噂をしていた
僕をどう見ているのか
僕をどうしようとしているのか
組織ぐるみで結びついた網に仕留められて
これから動物実験の被験体になる気分だった
《今度の婚約者はどうなるかな…?》
汚い言葉、汚い心
そんなの僕も同じだった
だけど今でもどこか信じたかった
ヒトは愛すべき生き物だと
《うわー、また一人でいるよあの子》
《友達いないんだねーまあどうでもいいけど》
《大丈夫?一緒に遊ぼっか》
《やめなよ、そいつ怖いし》
《ねえお前って女だよね?え、男?》
《いやいやはっきりしてくんないと困るわー》
《ホモでしょ違うの?》
《ほんと何考えてるかわかんなくてムカつく》
《ウザいんだよ話しかけてんだから話せよ》
《なんで挨拶返さないの?》
《キモいキモい、うわこっち見んな》
《泣いてんだけどウケる》
《こっちが泣きてえわー》
《ほら、教室に行こうよ》
《給食持ってきたよ、一緒に食べよう》