触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
…いらない
「しかし彼は本当に男性ですよね?」
「私も最初は疑いましたよー」
「本当に本当に。普通に女の子だと思って」
「まあね、今時は」
今時って、僕をタピオカか何かと勘違いしてるのだろうか
《無理しないでいいから、…そうだな。
家族について教えてもらいたいな。
君のお父さんはどんな人?》
《では、こちらのカードを持って下さい。
向きは上下左右、どのように見て頂いても構いませんから。その絵が何に見えるか、出来るだけ多く言ってみてください》
蝶みたいな形に絵の具が広がってる
森と湖みたいに絵の具が広がってる
骸骨、虫、傘
いろんな形に塗りたくった絵の具
《この絵を見て、誰を思い出しますか?
それは何故かも教えて下さいね》
絵を飽きるほど見せられて
クタクタになるまでカードを見つめて
カスカスの脳みそで連想ゲームをして
もう、そのカードたちは絵の具を零した紙にしか見えなくなった
《その絵は何に見えますか?》
《…わかりません》
わかりません
視力検査みたいに
見えないものを見えないと言うように
そんな風に簡単に心を言葉にできたら
心に口がついてたら
もっと楽に生きられたかもしれないって
そんなはずないのに思っているから
だから人を信じられないのかもしれない
《あの子空気読めないから》
《関わりたくないんです、疲れるし》
《うーん、悪い子ではないんだけど》
《なんか…暗い》
男でも女でもどっちでもいいから
味方が欲しかった
友達でも知人でも顔見知りでもいいから
言いたいことを言える人が欲しかった
恋人も家族もいらないから
認めてくれる人が欲しかった
認めてくれなくたっていいから
人としてみんなと同じように生きたかった
僕って、わがままですか
これは、自分勝手な願いですか
もっと何か努力すれば変わりますか
じゃあどう努力したら
僕は
君を信じられるの?
教えてよ
《お前なんか》
《いなくなればいい》
「夕紀君、大丈夫?」
「ごめん…ちょっと、なんでもない」
《うまく…話せないんです》
《大丈夫、大人になれば変わるよ》
じゃあ