触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
じゃあ僕は大人になるまで、
どこで息してればいい?
大人になるまでこの世界に耐えてまで生きる意味は何?
《生まれてきてごめんなさい?
…くだらないこと言わないで。もうこれ以上あなたに付き合ってられないわ。私まで気が滅入るから。
心療内科に通うのもやめましょう。
お金と時間の無駄よ》
なんで僕を生んだの?
どんな僕でも愛せると思ったから産んだんじゃないの?
ねえ、そんなに簡単に僕に愛想をつかすなら
最初からどうしてもっと考えなかったかな
愛せないかもしれないって
この子は誰にも愛されないかもしれないって
体や心がフツウじゃないかもしれないって
そのリスクを負うのはこの僕なのにさ
こんな気持ちでずっと90年近く生きてくなんて
聞いてないよ
知らなかったよ
だったら最初から検査でも審査でも
なんでもしてさ
僕なんか失敗作だっていってさ
…無かったことにすればよかったんじゃないの
《お薬お出ししておきますね。眠れない日用にと、気持ちを落ち着かせるお薬と。大丈夫ですからね。ゆっくり向き合っていきましょう》
キラキラした椅子やテーブル、
ホテルのロビーより豪華な受付
美容系のクリニックが隣接していて
アロマのいい香りがしていた
インテリアや照明を見て
儲かってるんだなあ
とだけ思った
それか、そのもてなしで
僕の心を安定させようとしてるのか?
知らないけど
ここに通う人達を見て
ずっと通ってなんかいたらいけないと思った
ここに通うことが目的になっているような気がして
薬を飲んでも何にも変わらなかった
母は少しは変わったと言っていたが
あの母のことだ
僕のことがわかるはずがないし
実際、金と時間の無駄だったのかもしれない
だけどあの空間も嫌いじゃなかった
それは満員電車とよく似ている
自分だけじゃなく
沢山の人間が苦しみながら生きている
それを実感する場所
一人だけど、
一人じゃないと思える場所
だからこそ、ここにいてはいけないと思った
思って、
薬もやめて
やっぱり変わらなくて
変わらなくて
人が僕を見ている
「では、ここでお二人からスピーチを頂きたいと思います。まずはサキ様から」