触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
「皆さま、この度は…」
「次は、七瀬夕紀様から…」
焼くような熱いスポットライト
あ…
眩しい光
あの頃みたいだ
眩しすぎて何も見えなくて
あの窓の外の雲と
隣の席だけ見てた頃
《クリオネってさあ、見た目可愛いけど
獲物食うときエグいんだよね》
ああ、クリオネさんが…
クリオネさんが食らう餌になりたい
ただのプランクトンよりは…
《俺…死ぬなら絶対海だなあ…
あ、ごめん今の無かったことにして》
そういえば、高梨のお父さんは…
《朝ごはん何食べた?俺、ゆで卵》
いや、もっとなんか食べる物あるだろうよ
金持ちのくせに…
「僕は…ゆで卵は…嫌いです」
だって…パサパサするし
「ん?何言ってんだあの子」
「おいおいしっかり喋れよ」
あれ…ここはどこだろう
人が…人がたくさんいるよ
多分1000…人くらい…
なんでだ
なんでこんなとこにいてマイク持って…
苦しいよ
なんでみんなみるの
みないで
にげたい
かくれたい
「ぁ…あの…」
「夕紀君、夕紀君!」
一時、停止
《手、見せて》
《お、生命線長えじゃん》
いらないよそんな線…消して…
《俺の生命線3センチくらいしかねえんだけど?
何贅沢言ってんの》
それはもう、全力で君に差し上げたい
この線を君に差し出したい
むしろ君にしかあげたくない
むしろ今すぐ君にだけに
「はぁ…はぁ、はあ」
あれ…?
まだ生きてるよな…
ここどこ
まだ…
「夕紀君、大丈夫?夕紀君!」
大丈夫、君と同じで僕も大丈夫じゃない
何もわからない
でも、ずっと頭の中で流れてる
あの日々のこと
鮮明に流れてる
綺麗な絵の具が広がってる
あの頃に戻ろうよ
ねえ
僕をあの世界にまた帰らせて?
そうしたらもう何も要らないよ
君の隣に座って眠っていたかったの
夏も冬も
いつまでも
90歳になっても
君の隣で息をしていたかったの
そうじゃなきゃ…
死んじゃうよ、ボクオレワタシ
みんな死んじゃうよ…