触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
バチン
目の前が真っ暗になった
「なんだ!?」
「おい、誰か、電気、電気つけろ!」
「警備員は何やってんだ!?」
ざわめく会場で、僕一人だけが安堵していた
良かった、ようやく息を吸える
キーンと音がした
「あ、あー、マイクテスト。
会場へお越しの皆様、大変失礼いたしました」
聞き覚えのある声が暗闇に響く
「急遽、司会を代わりに務めさせて頂くことになりました。高梨伊織です」
「高梨…」
「あ、あの人って」
「ご存知の通り私は皆様とはあまり関係が良くない、と言いますか敵対関係にあると言いますか、まあ
決して親しい仲ではありませんね。
しかし今回は私の友人の夕紀さんの晴れ舞台ということですから、水臭いことは言わずにぜひお互い楽しみましょう」
スポットライトが光り、会場入り口前に立つ高梨にだけ当てられた。
「おめでとう、七瀬」
おめでとう、って
何が?
「おい、あいつが赤西組の若旦那だ」
「捕まえろ!立花に報告だ」
「いや、でもあいつ一人だぞ」
「そうだ、あんな子供に構う必要はない」
高梨はたった一人で立っていた。
「落ち着いてください皆様。大丈夫ですよ」
高梨はまるでそこにいる誰よりも肝を据えた長のようだった。
「私はただ、本当にお祝いに来たんですよ。
こちらの中野さんから招待を預かり、有り難くこうしてご挨拶に伺ったというだけです」
こちらの、と手で示されたのは使用人の中野さんだった。しかし彼女の方はよく状況を理解できていないようで、ただ高梨を見て放心状態になっていた。
「とはいえ、私も長居をするつもりはありません。
あまり悪目立ちをすれば何処ぞのヤクザに目をつけられかねませんから」
しん、と静かな会場は冷え切った。
沸々と水面下に溜まっていたマグマが上昇し始めている。
何がどうしてこうなって…
「おいあいつを止めろ!」
わあっと声が上がって高梨に向かって会場の男達が飛びかかろうとしている。
こんなの、最悪だ
「や…」
「やめて下さい!」
僕が小さく呟く前に、サキちゃんがマイクを持って立ち上がり叫んだ。
男達は呪文をかけられたように足を止める。
高梨は何食わぬ顔で両手をあげて笑った。
「失礼しました。