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触って、七瀬。ー青い冬ー

第20章 歪形の愛執


そう思った時、僕の足はぴたりと止まった

「いらっしゃいませ!」


高梨が呼び込みをしていた


「うわ」

思わず桃屋の後ろに身を隠した


「…なぜ隠れるんです」

「見つかりたくないんで…」


桃屋は困った顔をした


「彼は昨日、あなたに対してきちんと気持ちを伝えてくれましたね」


【さようなら】


「あなたは途中で彼から逃げ出した」


【…耐えられないよ】


「あなたも、少しは彼に誠実に向き合うべきです。
もしも本当に彼から隠れたいほど思うことがあるなら、一度伝えたほうがあなたのためです」



向き合うっていったって

高梨こそ僕に向き合ってはくれていない


僕の気持ちは無視、自分の言いたいことだけ言って


だけど僕もそうだった


高梨と話し合おうともしなかったし
高梨がどう思ってるかも
どうしたいのかも
お互い聞こうとしなかった

そんな態度が続いたからこうなってしまった

だけど本当の気持ちを聞くのは怖い

本当に僕のことをもう友人として
そのまま距離を置いて離れていってしまうなら
その気持ちを受け入れるしかなくて

僕に高梨をどうこうできるわけもなく
していいわけもなく


「…無理です」


桃屋は僕の言葉をどう受け取ったのか

見上げると、呆れた表情だった


「けじめをつけてください、はっきりと」

「や、でもっ」


ドンと押されて飛び出して、
客と親しげに話している高梨の目の前にいた


「ありがとうございました」

高梨はあのクラブにいた時のように
営業スマイルを輝かせている


「高梨先輩!私20個!20個買ったんです!」

「本当に?それはやばい」


楽しそうに笑っている高梨と、後輩のその子は
とても輝いている


高梨の手がその子の頭に乗って
その子はとても嬉しそうで


その子はやっぱり楽しそうに帰っていった


あんな風に楽しそうに笑えたら
どれだけ幸せだろう


その子が行って、高梨が顔を上げた



「あ…」

目が…合った


【向き合って】

…だって

高梨の中ではもう
終わったんだろ



「高梨」


高梨は僕と目を合わせていた


けれど、

表情を変えない


確かに聞こえてる、見えてるはずなのに


「…」


高梨は何も返さない



「いらっしゃいませ」


返ってきたのは

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