触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
そんな浅くて薄い笑顔だった
そんな顔で見られても
なんて返したらいいかわからなくて
だけど高梨の中では僕はお客様だ
クラブに通い詰めてお金をつぎ込んで
高梨と決められた時間だけ話すことを許される
そんな彼女たちと変わらない
今、去っていった後輩の女の子の方がきっと
僕より距離が近い
僕は多分
「高梨さん!」
また次の女の子が来た
高梨はすぐにその子に向かって笑いかける
耐えられないよ
僕は踵を返し逃げ出す
「逃げないで」
僕の手を掴んだのは桃屋だった
「きちんと、向き合ってください」
「どうやってですか?
高梨ももう、僕とは向き合い終わったんですよ
もうそれがわかったし、いいんですこれで」
桃屋の手を振り払って逃げ出した
どこへ逃げればいいかわからなくて
校舎の人混みの中に潜り込んだ
するとまた、うるさい声が響き渡る
「みなさーんおまたせ致しました!
はいはいはい!お待ちかねっ!
ベストカップルコンテストを開催しまああああっす!」
わあっと群衆は湧き上がって
中庭の中央のステージに視線が集まった
ああ、ベストカップルコンテスト…
本当のカップルが出ることは稀で、
大体は同性同士がネタを持ち寄って披露しあう
余興みたいなものだ
懐かしくてステージを見た
「各クラスから一組ずつエントリーが可能な今回のコンテストです!さあさっそく一組目のステージに参りましょうっ!」
カップルコンテストが始まると、
生徒達が集まって興奮した様子でステージをもりあげる
「さあ、次は3年7組!えーと、このクラスは…
なんとスペシャルなゲストがエントリー!
さっそくお呼びしましょう。
高梨伊織君と!」
高梨がステージに登る
きゃあっと歓声が上がって
高梨はステージ下の女子達に手を振る
一体、誰と出るつもりなんだ…
「八霧夏樹先生!」
…誰だ?
「ええーっ!」
どよめく観衆の前に、スーツ姿の男が現れた
先生って…あんな人いたかな
八霧夏樹先生と高梨は、ステージ上で歌を披露した
最近実写映画化したアニメの劇中歌、
男女のデュエット曲だった
本気かどうかわからないけど
どっちにしろ、僕には関係ないから