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触って、七瀬。ー青い冬ー

第20章 歪形の愛執



その密約のような言葉は
蛇みたいに僕の体を這いずり回った


タダで


「…お店のお客さんと一緒にしないで下さい」

高梨の手は前と変わらないのに

今は汚れて見えた


「…」

高梨がようやく黙って
僕は腕を振り払った


「もう二度と触らないで下さい」


どうして思い出まで踏みにじって
ぐちゃぐちゃにかき乱してしまうんだ

あの頃たしかに
まだ
友達だったのに


「お返しします」


いつかもらった指輪

白と黒のペアリング

あの冬の日も
もう、気の迷いの中にあった

ただの廃墟



高梨もあのペアリングはいつからかしなくなった

多分、あの祝宴を機に外したんだろう

そんなこともどうだっていい


高梨は一度、
僕が突き出したリングをじっと見つめた

そして、独り言を呟くように
僕の目を見て言った


「…そんなもん、まだ持ってたんだ」



その表情を見て、何故か

押し出されたような笑いがこみ上げてきた

何も、

何も、そんな言い方しなくたっていいじゃないか

そう、それで

僕のこと馬鹿にしてんだ


そうやって

ああ、わかったよそういうこと

今まであなたが僕にしてきたことって
全部、全部、タダのサービスだったんだ

納得できたよ

ああ、そっか

今までの一年間

全部全部、遊びだったんだ

…返せよ、不毛なこの一年間


「持ってましたよ?
馬鹿みたいだよ本当に、こんなの持ち歩いてた自分がさ、痛すぎて笑えますよね」


あれ、そういえば

僕は確かどこかの銃をもった集団に追われて
死にかけながらようやく生きながらえたよな

その中で僕は大切な人を失ったよな


その事件の発端はなんだったかな


もともとは、立花に目をつけられてしまったからで


立花が僕を捕まえようとしたのは何故だっけ

ああそうだ

高梨とつるんでたせいじゃないか

そうだ

高梨と立花は以前から面識があって対立関係にあった

僕は、ただ高梨と立花のくだらない紛争に巻き込まれただけだったんだ

そうしたら、
そうしたら


先生が死んだ意味はなんだったんだ



「こんなものもういらないよ」



何故気がつかなかった

早々に、こんな関係なんて切り上げておけばよかったのに

そうだ

気がつかなかった僕が悪かった


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