触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
自分が今まで生きてきた中で
最も重い罪が、
自分の生きる意味を、ピアノを教えてくれた葉山先生を死なせてしまったこと
そしてそれを引き起こしたのは高梨のせいであり
しかしその高梨に近づいたのは僕の方であった
最も大事な人を、自分の手で殺したようなものだ
僕が生まれてきた意味も生きてきた意味も
全く、わからなくなった
指輪を、教室の窓を開けて投げた
僕達の言い合いに教室の視線が集まっているが
もうそれどころではなかった
「これで、綺麗に無くなったね」
何に対して怒ってるのかわからない
いや怒ってるんじゃない
傷ついたんだ
「…真面目か」
高梨は呆気にとられた顔で窓に近づいて
外を見回して指輪の行方を探した
だけど見つかるわけがない
投げた先は川の中だ
これでもう二度と、迷わないよ
高梨が指輪がもう見つからないとわかって振り返った時、何度も眺めた目に言った
裏切りとはこういうことだ
世界で一番酷い言葉で苦しめてやろう
その分僕も罪を背負って生きていく
お前も背負って生きていけばいいよ
「先生じゃなくて、お前が死ねばよかった」
僕は言ってから、言わなければよかったと思った
高梨の顔も見られずに、顔を背けて
背中を向けて走った
教室さえ飛び出してしまえばきっと、
泣いても許されるはずだ
だけど、恐ろしくて涙も出なかった
自分が誰かをこれほどまでに憎めること
誰かを傷つけられること
嫌いなら、いくらでも死ねばいいと唱えられること
…醜い
恐ろしくて、今すぐ死んでしまいたかった
誰かを殺せる
こんな風に傷ついている時なら僕は
きっと誰かを殺せてしまいそうだ
……
「…高梨、何があった」
高梨伊織は、窓の外を眺めていた
彼は空を見上げながら笑っていた
「…幸せな絶交」
しかしその笑顔は今までに見たことがない
痛々しい
「幸せ?…なのか?」
それは誰にとって?
「七瀬の幸せが俺の幸せ」
「それは…」
本当に七瀬の幸せなのか?
「うん、でもこうするしかないんだ」
……
こうするしかない、
彼の記憶から消えて
彼を薬から抜け出させる
そうすれば彼は頭痛や精神的苦痛に悩まない