テキストサイズ

触って、七瀬。ー青い冬ー

第20章 歪形の愛執



だからあのピアノを最後に別れを告げようとしたのに

桃屋、七瀬の世話役をしているらしい男が
文化祭に現れた


七瀬と桃屋の姿を見たときには動揺した

でも、俺の計画はうまく行ったはずだった


八霧先生とカップルコンテストに出場して、
完全に七瀬とは終わったと
対外的にも七瀬に対しても宣言できた


それでよかったはずだった


でもその次の日から、七瀬は学校に来るようになって

正直、何も手に付かなかった

授業中でも何をしていても、七瀬を見ていることしかできなくて
毎日隣に居られることはあまりに刺激的だった

別れを告げたのに、体も心も全く七瀬と離れるつもりはなかったみたいだった


【彼のために、身を引いてください】


桃屋の言うことは最もらしかった。

俺という目障りな障害さえなければ、
七瀬は平穏に暮らしていけるはずで
七瀬もそれをのぞんでいるはずだった

特にあのパーティーからは確実に七瀬の俺を見る目が変わり、俺との間に分厚い壁ができつつあった

しかしどうだろう

隣にいる七瀬は暴力的に俺を苦しめた


七瀬が好きだった


それを日々、新しく刻印されるように
思い直しては新しく塗り替えられていく

触れたい

声を聞きたい

その繰り返し



【忘れられるくらいなら、
嫌われた方がよっぽど有難い】



それは本音だった

ただ、そんな手段はあまりに姑息で
七瀬にかかる負担が大きすぎる

誰かを嫌うことは疲れる

誰だって、人を嫌いだと感じることに
癒されはしないだろう



そうわかっていて、わかりつつ

毎日七瀬が送迎の黒塗りの高級車に乗り込むたびに

誰かに慰められている七瀬が想像される



駄目だ、忘れろと思うたびに鮮明になっていく



忘れられていくのだろう

きっと俺の代わりはいくらでもいるのだろう



…それでも、七瀬が幸せなら


俺のことは忘れていくだろうけど


でも、たったあと数ヶ月の高校生活で
俺がどんなことをしようがきっと
七瀬は忘れてくれる


きっとそのはずだ


忘れられてしまうなら


…忘れられるくらいなら



思い止まろうとした

わざわざ

さあどうぞ、俺を嫌ってくれ

と醜態を見せびらかさなくたって




…いや駄目だそんなんじゃ



理解しがたいかなこの感情


ストーリーメニュー

TOPTOPへ