触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
「だってさ」
七瀬の影に言うと、カーテンが風で揺れる
もう返事が返ってこない
嫌われようとしているくせに
無視される度に不安になる
…このまま二度と返事がなかったら?
湿った葉と土の匂い
風が吹いた
秋なんてもっとずっと先に来るものだと思っていた
カーテンが揺れて
その向こうに立つ七瀬の影が揺れた
「…」
七瀬は着替えを終えて、カーテンの後ろから出てきた。
今日は少し肌寒いから、長袖の紺色ジャージを着ている
でも下は短パンで、モデル仕様の無駄毛がない真っ白な長い足を出している
寒いんだから長ズボンを履けばいいのに
「…まだいるし」
切ったばかりのグレーに見える髪をくしゃくしゃとかいて、心底だるそうに言った
そんな、半開きの無気力な目は久しぶりに見たような気もする
最初に出会った頃の目と同じだった
でも今は、もっと生命力が薄く活力がない
なんでかな
「早く着替えろよ」
抑揚のない声が、生徒を注意する先生のように言った。無駄な感情が一切ない、極めて事務的な連絡だ。
「わかってるわかってる」
どんな内容だろうと、七瀬が自発的に発した俺への言葉であることに変わりはない。
有り難くお言葉を受け取っておこう。
七瀬はすっと俺の横を通り過ぎて教室を出た。
ガラガラ、と扉が無慈悲に閉められる
この距離感、しょっぱいなー…
…涙でそう
「…」
ち、ち、と秒針がなる
たしかに、授業開始まであと3分しかない。
まあ、いいか。
このままここで寝ていよう
体育では自由に球技練習をする時間になっているが
どうせひ弱なクラスメイト相手じゃ何やったってつまらん
それに、多分いなくてもばれねえし
教卓の上に寝っ転がった
「あー…」
天板が硬くて背中がちょっと痛い。
保健室に潜り込むか?
でもあのベッドも硬いな…
目を閉じると風の音
「…」
キンコンカンコン
うざったい耳障りな始業の合図
この鐘はもっと良い音にならんものか
せめてもっとお洒落な教会っぽいチャイムとか
「…何やってんだよ」
「ん?」
首を折って顔を上げると、七瀬…七瀬がいる!
「何やってんだよサボる気かクズ」
嫌悪感丸出し
うーん、戻って来てくれたのは嬉しいんだけど
なんでそんなにおこ?