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触って、七瀬。ー青い冬ー

第20章 歪形の愛執



「そういうのさ、…本当にやめて」

七瀬が思いつめた表情で訴える
普段の口調に戻っているのが
切実さをさらに強調している

「…」


ええ、悲しいよ俺…

そうかそうか、つまり君はそんなに俺が嫌だったんだな

たとえ三万もらっても着替えを手伝いたくはないんだな…

でも、そう言われると意地でもやらせたくなる

だってもう嫌われてるのわかってるから。
じゃあ好き勝手にさせてよ


「じゃあいいものやるから」

「…」

七瀬がぴく、と肩を動かした

俺はスラックスのポケットを探って
飴玉を取り出す


「これ、俺もよく上から貰うんだけど
あんまり効果ねえからいらねんだわ」

ピンク色の飴

七瀬が依存しているっていうあの飴

…この手だけは使いたくなかったがやむを得ない


「なんで…」

七瀬が泣きそうな顔をする


「これ欲しい?」


七瀬は何度も首を振った
目を瞑って

言い聞かせている


「いらない、いらない」

七瀬は必死に抵抗してみせる
でも、その場を離れられない
足が根を張って動かない

ああ可哀想


「七瀬、あげるからおいで」


手招きをしても、七瀬は呪文をつぶやき続けた

慣れた口調で


「嫌だいらない欲しくない、嫌だ、いらない、欲しくない…」


欲しくないって言い聞かせる
ダメだと言い聞かせる
欲しがるなんていけないことだって

でもそれって逆効果なんだよ

言い聞かせる度欲しくなるでしょ


「よしわかった、じゃああげない」


大人しく飴をしまうと、七瀬は呟くのをやめた


「…!」


七瀬が目を見開いて床を見つめている

ああ可哀想


「わかったよ。着替えたら行くから」

ね、どんな気持ち


「…くっ…そ」

ぎ、と歯を噛み締めて俺を睨む七瀬


「いいよ、体育館行きなって」


何事もなかったように追い返す

あーあ、これでさらに嫌いメーター上がったな


「…飴」

あーあ

「え?何、聞こえないー」

「飴…」

「今日晴れてるけど」

「飴よこせ」

よしかかった

「あんなにいらないって言ってたのに?」

「いるから…」

「よーしわかった。じゃあお願い」


再び患者に成りかわる

医者が七瀬だったら好きなだけ病院に通うんだがな…病院嫌いは多分ずっと治らない


「ネクタイ取って」

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