触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
飴の袋を破いて口に入れる
「あっ」
じんわり滲む化学調味料、もとい、果汁
「うわ、甘いなコレ」
「な、何考えてんだよそれ、一個しか…」
「ないよ」
口を開けてみせる
「口移し」
七瀬は驚きと呆れで声も出ないまま一歩後ずさりした
「いや…もう…いいです…」
「してよ」
もう前みたいに
飴なしじゃキスなんてできないみたいだ
飴があったとしても無理かな
教卓から降りて七瀬の前に立つと、
七瀬はさらに後ずさりした
「そういうの本当に良くないと思うんだけど」
「そういうのって?」
「こういうことって普通は、常識的には
恋人同士がするものなんだって、わかる?
あなたみたいな人にはわからないかもしれないですけど…普通の人は嫌なんですよ」
なんで丁寧語になる。
「そりゃわかってるけど」
「わかってないから言ってるんだよ…ていうかまずさっさとジャージ履いてくれないかな」
七瀬が目を背ける
「着替えとかいいだろ別に」
どうせ脱ぐ
「いや空いてるしチャック」
ベルトが外れたままの下がりかけたスラックスとチャックが全開で黒いパンツをお披露目していることに気づいた
「…俺だって恋人とそうじゃない人とじゃ
当然接し方は違う。仕事とプライベートは分ける」
「…そういうことじゃないって。
だから、普通は!恋人以外とはキスはしないから!
着替えの手伝いもさせないから!
あなたは多分仕事で?そういうのも遊びで?
できたりするのかもしれないですけど
普通の僕みたいな一般人からしたらですけど
そういう遊びに使われるの本当に迷惑でしかないし
お互い合意の上で?望んで遊ばれるならまだしも
僕の場合強制的に搾取されてるだけっていうか
僕そういう遊びとか望んでないんで
だからやめてほしいって言ってるんですよ」
「じゃあ七瀬はこれまで恋人以外とはキスしたことない?」
「な、…」