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触って、七瀬。ー青い冬ー

第20章 歪形の愛執



ない、といいかけて七瀬は声を失った

「そもそも恋人っていた?」

「え…」

七瀬の歴史を一から全て知ってるわけじゃないが
それほど恋愛経験が豊富じゃないことくらいはわかってるつもりだ

「あ、翔太は恋人だったか?」

翔太とはしばらく会ってもないし連絡もない

「……違う…」

違う、とはっきり言われるとは思わなかった
てっきり恋人関係だったとばかり思っていた

「じゃあ葉山先生は?」

「…」

「違うな」

先生はまるで七瀬の親だった

「あ、桃屋がいたか」

桃屋…下の名前は聞いたことがない
あいつの素性は何も知らない

「……違う…」

違う?…まさか。
これには思わず喜びそうになった

しかし、七瀬も恋人じゃないのに体の関係があった相手が割と多いとわかったことの方が少し胸を突くように痛かった

それで、それを誤魔化す俺の弱さが出てしまう

「あれー?おかしいなあ七瀬君
君もなかなか不純な関係が多いんじゃないか」

「…それは僕が望んだことじゃないし
全部不可抗力で」

「じゃあ百歩譲ってそうだとするよ
そうだとしてなんで俺だけは駄目なの?」

「嫌いだから」


キライダカラ…


「おーい七瀬君ー」

教室の外から呼びかける声がする
は、と七瀬が肩をすくめた

「…おかしいな、なんで2人ともいないんだろう」


誰か、クラスの奴がもう1人派遣されてきたようた
教室に足音が近づく

七瀬は律儀に返事を返そうとする

「あ、ごめ…むぐっ」

七瀬の口を手で抑える
歪む眉が綺麗だ

「…!!」

人差し指を立てて口に当てる

「今度は俺と隠れようか」


七瀬はもちろん逃げようと持ち前の腕力で俺の手を引き剥がそうとする

ピアノを弾き続けていれば自ずと握力だけでなく腕力も付いてくるものだ

そうでなくとも育ち盛りの高校三年生だ
こんなに細い体だって侮ることはできない

そうは言ってもバスケ部としては茶道部の色白に負けるはずがない、と思いたい

七瀬の口を押さえたまま腕を引いて体を引き寄せる


すぐによろけて体を預けてしまった七瀬に
考える間もなく与えずに唇をつけた

くちゅり、と濡れた舌で引き結ばれた無愛想な冷たい唇をなだめる


「っやめっ…っん!」

頭を掴んで押さえつけてしまおう
唇は頑固に開かない

「おーい…教室にまだいるのかな?」

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