触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
僕も最高だと思った
先生はいないし授業もないし
…と思っていたのが馬鹿だった
「よし、邪魔者は消えたな?」
「…は?」
高梨が目を細めた
「立て」
嫌だとか言う間も無く、腕を掴み上げられる
「あ、!」
腰を上げた瞬間、尻に刺さっていたのが
するりと重力に負けて少し抜けた
その引き抜かれる感覚で膝から力が抜けて
崩れ落ちそうになる
高梨が腕を引いて胸で受け止めた
「離せ、って!」
「皆の前でちゃんと自分が何してたか言えたら離してあげてもいいかなあ」
何が嫌で高梨に抱きしめられなきゃいけないんだ
しかも、こんな状況で
高梨の腕が背中にまわり、僕を捕まえて離さなかった
固い胸板の感触を頬で感じた
いつか見たベッドの上の光景、
服の上からでは分からない鍛えられた体
同じ人間と思えない程体が硬くて
僕のような弱々しい男なら、片手ですぐにへし折られそうだった
そんな体はこれまで何百人という人間に愛されてきたはずだった
どんなに欲しいと思っても、自分だけのものにしたいと思ってもならないもの
それでもいいと思っても、無理だった
結局、僕が独占なんてしていいものじゃないし
高梨は物じゃないし
全ての決定権は高梨にあって
僕がそれをどうこうしていいわけなくて
僕だけを見ていてほしいなんて
言えるわけもなくて
そうやって苦しむのは馬鹿らしいから
もう希望を見るのが嫌で
もしかしたら、なんて思いたくなくて
高梨伊織は絶対にたった一人を一生愛すことなんかできない
それが僕の中で出た答えで
もし一時的に愛しあえたとしても
それは結局気の迷いに過ぎないって
きちんと区切りをつけた
もう友達だからなんて言葉に
曖昧なごっこ遊びに本気にならないし
そんな弄びに付き合う義理もない
高梨もきっと僕に区切りをつけたと思っていた
それなのに何故、まだここにうずくまってるんだ
みんなが口を開いて冗談を言い合っていた
このまま授業がなくなるかも、とか
そうだったらいいな、とか
所々では受験勉強に本腰を入れて
黙々と自習に励む人もいた
だけど僕は、…何やってるんだ?
チラチラこっちを見てる生徒もいる
二人だけ立ってて目立つけど、一番後ろの席だから
前の方の人たちは気づいていない
どうにかこのバカの行動を抑えて
何事もなかったようにしないと