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触って、七瀬。ー青い冬ー

第20章 歪形の愛執


「…わかったよ、」

もちろん何もわかってないけど
離してくれさえすれば、うまく隙をついて
トイレにでも逃げ込んでしまおう

そんなにうまくいくかどうかは置いておいて

ひとまず、みんながこちらに気付く前に…

「じゃあ、みんなの前でごめんなさいって言ってくれる?媚薬で発情してお尻にディルド突っ込んで、授業中精子垂れ流しててごめんなさいって」

顔もスタイルもここまで恵まれていて、
何故性格だけここまで歪んでしまったのか…
いや性癖か

「はあ…」

「できるよね七瀬君」

こうして抱きしめられて
この笑顔に見つめられるのを夢にまで見ていた頃もあったのに

「わかった」

高梨の髪が一段と深い黒に見えた
大きな手のひらが僕の頭の上に乗った

「うーんいい子だねえ」

からかう笑顔はいつになく楽しげだった
たしかに、こいつは僕をペットかなんかと勘違いしているのだろう
それも世話をするのではなく、いじめるだけだ

タチの悪い飼い主、この上ない
こんな奴かペットなんか飼ったらきっと愛護団体も真っ青の性的虐待をしでかしそうだ

「おーいみんな」

…大誤算だ
高梨は僕を腕の中に力強く閉じ込めたまま
クラスに声を響かせた
ばっとみんなが振り向いた
僕を好奇の目で見つめている

…ダメだ、視線が怖い、痛い

それぞれの目から矢が飛んできている

なんだあいつ、何してんだ
この大事な時期に、不真面目な奴
うるさい、目障り、邪魔
騒ぐなら外でやれ、みっともない

頭の中で聞こえる声は全部、僕の幻聴
わかっててもそれが本当に思えて仕方ない
それに本心はだれにもわからないし
彼ら全員、僕を嫌ってたってなんの不思議もない
嫌われても構わないなんて思えない
逃げ出したい、見られたくない

息が浅くなってきた
体は熱いまま、頭だけが氷漬けにされたようだ

息苦しい

「ちょっと聞いて、七瀬が話あるんだってよ」

高梨は僕をみんなに向かわせる
そして後ろから腕を回されている
やっぱり逃げるなんて無理な計画だった


「七瀬、言って」


顔が…たくさん
僕を見てるの?


思い出した

いつから人前に出るのがこれほど嫌いになったのか

ピアノのコンクールだ


ピアノを弾くのは、本当は好きだった
嫌いだと思っといたけど本当は好きだったんだ

【誰がピアノは嫌いだって?】

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