触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
ぴろん、かしゃ、ぴろん
嫌な音がそこかしこで鳴り始める
怖くてなんの音かも確かめられない
「あーあ、ほら見て、みんなお前のこと撮ってるよ
えっろい顔保存されちゃうな」
吐息が混ざった低い声
僕を殺す気だ
許すつもりなんて最初からなかったんだ
「うう、やだ、やめて、ください」
シャーター音、撮られてる
奥に突きつけられてるの、気持ちいい
脚が震えて立ってられない
高梨の腕にしがみついた
「だってお前モデルだもんなあ、女の子から大人気なんだって?どうする、憧れの七瀬夕紀がネコだったってわかったらみんながっかりだな」
今まで声をかけてくれた子たちは、僕をどう見てたんだろう
かっこいい、それとも可愛い?
どっちだっていいけど、どちらにしろ
本当の僕なんて誰も知らないから
「ごめんなさい、ごめんなさ、ああっああ」
高梨が首筋に唇をつけた
くちゅ、と柔らかくてしっとりとした優しい唇は
肌を包み込みほぐしていく
「っう、嫌だ、」
こんなの嘘だ、クラスの全員に見られてるなんて
どうして誰も止めてくれないんだ
僕がこんなに嫌がってるのにさ
ねえ、誰か
誰かが助けてくれないか
つぶっていた目を開いた
そこは、まるであのコンクールの会場
僕をみんなが見ていて鑑賞している
この子、下手ね
うーん、悪くないんじゃない?
だけど、さっきの子に比べれば、ねえ
なるほど、10点中7点というところかな
うるさい、うるさい!
かしゃ、かしゃ
フラッシュが目を潰す
やめて、品定めしないでよ
僕は暇つぶしのための見世物じゃないんだよ
「七瀬、みんなにイキ顔見せてあげようか」
「いや、だ!」
「もう一段階、強くしてあげるから」
高梨は悪魔よりも残酷な天使
幸せを僕に見せつけてからどこかへ去っていく
薄い唇が耳を挟んだ
ぶっぶっぶっ
「ぐ、あ、あ、ああああ」
視界が白くなった
息ができない
なんだこれ
柔らかく熟した果実の核心をごつごつした棍棒が
ぐりぐり押しつぶす
弾け飛びそうな果肉は果汁を漏らしながら
ぐちゃぐちゃに崩れていく
甘い香りは高梨のシャツについた香水の香り
蜂蜜がドロドロに僕の口を満たしていく
鼻に抜けたまとわりつく過剰な甘み
高梨の黒い髪はタバコの匂い
どこでつけてきたんだよ
自分では吸わないはずだから多分
お客さんのだろう