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触って、七瀬。ー青い冬ー

第21章 湖上の雫





世界で一番大嫌いだ


そんな言葉を君の口から言って欲しいな


俺の事を誰よりも憎んで欲しい

一生俺の事を憎んで憎んで

死ぬまで忘れないでいてほしい

そして俺が死んだら君はきっと喜んでくれる

これほど嬉しいことはないよ

俺の死が君にとっての幸せなら

死ぬのがなんだか楽しみだよ


君が死にたいと泣いているのなら

俺が代わりに教えてあげようか

死ぬのは世界で一番恐ろしいことだって

君の目の前で教えてあげようか

俺が苦しむ姿を見たら分かるんだろうか



君は死にたいなんて言わないで

笑って今を生きてくれるんだろうか


笑っているのが君にとっての幸せじゃないかもしれない

でも君の笑顔をもう随分見ていないから

少し心配になるんだ


君の笑顔を見るのは俺じゃなくていい

でも君には笑っていてほしい


その笑顔を壊しているのが俺だったりもするのかな

だとしても俺に君を笑顔にすることはもう不可能だ



君が喜ぶことならなんだってしてあげたい

君はまるで風で、海で、雲で、空で

他に替えようのない美しい奇跡

1秒経つごとに違う表情で、色で

毎秒君を見て息をするのを忘れるほど夢中で

でも君には絶対に触れられなくて


恋なんて気の迷いだってわかっていたけど

もしこれが気の迷いだと言うなら

俺は今まで迷ったことなんてなかったらしい

恋なんてしたことがなかったらしい


君を見る度に迷ってる

自分が誰かわからなくなる

そういうのが恋なんだろう

君を見て初めて知った


君を見ていられるだけで俺が生まれてきた価値はあったなと思う


君と同じ瞬間を過ごせることに感謝したい

君を見ている間だけは神を信じられる

あの人も、そんなに悪い奴じゃないと思える


君が俺の視界に入らなくなる日がいつか来るんだとしたら

どうしようもない
ただ世界がまた暗くなる


また空のない日々に戻るだけだ


でも空の青さを知った鳥はもう夜の空には戻れないように

俺もきっと耐えられないんじゃないかな

そうしたらその時は

月の光でも見ていようか




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