触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
まあその後の展開といえばありきたりで、
今は通信制の高校に通っているらしいです。
それ以外に特筆すべきことはほとんど見つけられませんでした。
そのせいで聞いていたよりも報酬は弾みませんでしたしね。
あんなに必死になって探していた少女が、
単なるどこにでもいる高校生だと知って
自分の愚かさを思い知りました。
世間の興味を引きたいのなら、事実を追いかけているだけでは不十分なんです。
事実は所詮、日常の風景に過ぎない。
悲劇も喜劇も張り合いがない。
煽りたいならデマでも何でも撒き散らして仕舞えば
いいんですよ。
その収拾をつけるのは私の仕事じゃない。
世間が勝手に騒ぐだけ騒いでストレスのはけ口にしているだけですから。それに彼らもいずれ忘れていくんです。人の噂も85日か一年か五年か十年かしりませんがね。
だからなんだって、
もし七瀬夕紀が世間の批判に晒されようと心配は無用だと言うことです。
…あなたは少し彼について過保護すぎる。
まるでモンスターペアレントとでも言いますか、
今日の騒ぎはあなたが起こしたことでしょうに、
私を巻き込んで一体何がしたかったのです?
あなたと七瀬夕紀は正反対の性格です。
あなたのように彼もそんな身勝手な振る舞いができたら、きっとこんな風に苦しむことはなかったんでしょうね。
けれど彼は今でも常に他人の目を気にして生きている。
彼は私の前では両親のことを一度も口にしませんでしたが、それはきっとまだ彼らを気にかけていてどこか後ろめたく感じているんでしょう?
調べればすぐに分かりますよ。実際にうちの記者が一度押しかけました。予想通りヒステリックな母親で七瀬夕紀のことよりも自分の周りがそうして騒がしくなることに腹を立てていたようです。
今時、純粋な親子愛なんて反吐がでるでしょう?
それが普通ですよ。そういう母親でむしろ安心しました。
しかし人に従っていないと落ち着かない彼は、そんな両親の言うことを聞かずに家を出たことを悔やんでいるかもしれません。
どれだけ憎んだ相手でも、親は親ですからね。
血の繋がりがあるにしろないにしろ…
そろそろ当館に到着するようですよ。
あなたはもう降りてくださって構いません。」