触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
スタジオを後にし、
メイクや髪型はそのままで服だけを脱いだら
制服に着替え直す。
メイクは落としてもらうこともできるけど、
メンズメイクだしそれほど目立たないのでこのままでいいと言って出てきてしまった。
着替え終わり部屋を出ると、扉の横に桃屋が立って待っていた。
「お疲れ様でした」
白い手袋をした手に差し出されたのはペットボトルの水と、…飴。
いつもと少し違う色だ。ピンク色じゃない。
だとしたらこれはただの飴?
「この飴は新しい味なんですよ。効能に個人差が大きく現れる、まだ試作品なんですが」
桃屋が身を乗り出して顔を近づけてくる。
この飴を舐めさせようとしているらしい。
「…ちょっと怪しくないですか?
しかもそれ、パンダ…」
飴の袋にはパンダのイラストが付いていた。
笹を食べているし、あめの文字がひらがなで子供っぽい。
「最近は取り締まりが厳しいらしいですからね。
少しでも怪しい成分がある時はこうしてカモフラージュするそうですよ」
桃屋は飴を開けて飴玉を僕の目の前に出した
「いやいや、逆に怖いので遠慮しておきます」
「遠慮は要りません。ほら、口を開けてください」
「ちょっ!」
「何してんの?」
ピタ、と僕と桃屋の体が固まる。
見ると、カメラマンの平賀さんが不思議そうな表情でこちらを見ていた。
桃屋が素知らぬ顔ですっと体を引いて僕の後ろに下がる
「い、いえ何も!こちら…えっと」
桃屋を紹介しておこうかと思ったが、
使用人だとか言ったら僕の表向きの身元が嘘だとバレるんじゃないか
一応僕は縁を切った両親の家を今の住所ということにしてあるし…
平賀さんは僕が何者だろうと態度を変えないと思うが、万が一白塔組だとか赤西組だとか
はたまた新しい組織となんらかの繋がりがあったりしたらヤバくはないか…?
「私は親戚です。お気遣いなく」
色々考えているうちに、桃屋が勝手に設定を作って軽く礼をしていた
親戚って、テキトーすぎるだろう
白い手袋をしてる時点で既に怪しまれているのは間違いない。
「ああ、…どうも。
あの七瀬君、ちょっといい?」
平賀さんは特に桃屋を気にかけなかったようだ。
「あ、はい。撮り直しか何かで?」
「違うんだけど…」