触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
色々…?
「と言いますと?」
ここは桃屋が昼間勤める蛍光出版社が出すファッション誌の撮影協力を請け負っているスタジオで、
平賀さんもそのスタジオのスタッフの一人。
…と考えていたが、それ以外に色々、とは?
「モデルとかファッション誌の業界は芸能界と通じているよね。例えば君は蛍光出版の雑誌で専属モデルとしてやっているけど、芸能事務所に所属すれば
テレビ業界に出たりもできる。もちろん事務所に所属しなければいけないってわけでもないけどね」
「はあ、そうなんですか」
生まれてこの方、テレビというものをきちんと見たことがなかった。あの家にはテレビがなかったし
テレビなんて見ちゃいけないと教えられていた。
だから芸能界のことに関しては本当に無知であるし
知ろうとしても簡単に理解できるものでもないと思っていた。
「俺は沢山のモデルを撮ってきたけど、その中には俳優に転向してドラマで活躍してる子もいるんだよ。そういう子の才能っていうのは写真を撮る側からすればすぐにわかるものなんだ。表情とか仕草とか、自分の魅せ方が分かってるかどうかってこと」
「はあ、そういうものですか」
僕はまるで馬鹿みたいにへえとかはあとかしか言えないけど、平賀さんのキャリアを考えればきっと本当なんだろう。
「だからさ、モデルとして雑誌に載ってる子は言わば俳優の卵とも見られるわけだよ。何しろ見た目っていう一つの壁はクリアしてるわけだからね、演技力は後からいくらでも習得できるじゃないか。
それでモデルの仕事を一つのステップと考えて、俳優として活躍しようと躍起になってるのも多くいるんだよね」
俳優か。演技なんてそれほど難しいものだとも思わないが、一流としたやっていこうとしたらそれなりに大変なんだろう。
「だから俺はそういう子達の手助けをたまにしてあげるんだよ。一応、テレビ局の番組制作に関わってたこともあったから繋がりがある」
平賀さんは優しく目尻の垂れた顔で笑う
「俺は君に才能があると思ったんだ」
「才能…ですか?」
「そうさ!俳優の素質があるよ。
きっと七瀬君の才能はモデルの枠には収まらないんだ。この先、いつまでモデル業だけでやっていけるかわからない。でも俳優業にも手を広げたら可能性は大いに広がる。きっと食べていけるようになるさ」