触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
「でも、僕テレビとか本当に興味はないのでわからないですし」
才能があるなんて言われても、自分でわからないのにどうやって活用できるって言うんだろう
「君を知り合いのテレビ局のプロデューサーに紹介しようと思ってるんだけど、もちろん君もいいと思うよね」
平賀さんは僕の肩に手を置いた
「い、いや…僕は、遠慮しておきます」
確かに、モデルの仕事はとても魅力的だと思う。
メイクさんが言っていた通り、僕も楽しんでいたかもしれない。しかし、テレビに出るなんていうのは話が飛びすぎていやしないか?
ていうかそもそもテレビなんか絶対出たくない、
あんなのに出たいと思う奴の気が知れない
「いいのかい、こんなに大きな機会を逃したらきっと後悔するぞ。そんなに恵まれた容姿なんだから
活用しないでどうするんだ」
「僕はテレビが嫌いなんです、だから…せっかくお声がけ頂いて申し訳ないんですが今回は、」
ぐ、と肩に置かれた手に力が入る
「いっ…?」
ズキ、と痛んだ肩を一瞬信じられなかった。
だってまさか、意図的に力を込められるなんてあるはずがない。あの平賀さんがそんなことをするはずが無い。
「どうして?他の子は素直に喜んでくれるよ。
むしろ向こうから頼みに来るんだ。彼らは夢を叶えるためには手段を選ばないよ」
平賀さんは肩を掴んだ手で僕を壁に押し付けた
「何故だろうね、俺の趣味が分かるのかな。俺に寄ってきて“頼み事”してくるのは皆男の子なんだ」
「へ…?」
頭がエラーを起こした。
待て、平賀さんは何を言っている?
きちんと情報を処理しろ、おい
「あ…の、平賀さん?」
平賀さんは僕の脇腹に手を置いた
「俺が今までどうして七瀬君の事ずっと贔屓にしてたかわからないの?いつか君からお返しをもらえるかと思って待ってたんだよ。大抵の子は気付くんだけどなあ、それが社会のルールなんだよ」
脇腹から、腰、腰から、尻
平賀さんはそんな人じゃない、違うだろう
多分夢、多分夢、多分、夢
「はぁ…君も色々と大変なんだろ」
平賀さんの手が、尻を触っている
揉んでいる
声も出なかった
体が固まっていた
知らない人についていっちゃいけないよ、
もし連れていかれそうになったら大声で助けてって叫ぶんだよ、逃げるんだよ
小学生で教わっていることが、僕にはできなかった