触って、七瀬。ー青い冬ー
第4章 仮面の家族
先生は僕をコントロールする方法を知っている。
僕は気づかないうちに、先生の言いなりになっている。
僕は広いホールの中を彷徨った。
先生はいない。
「君」
目の前に、中年の男が立っていた。
「これで、どうだ」
男は札束の塊を僕に見せた。
「あの…」
どうだ、とはどういう意味だ?
「未経験かい」
その言葉で意味がわかった。
僕は走って逃げた。
出口がわからなくて、とにかく隠れる場所がないかと思った。
やっぱり、ここは僕がいてはいけない場所だ。
「翔太〜!」
女性が群がるステージがあった。
そのステージでは、警察官の制服、
学生服、水着姿など、色々なコスチュームを着た男性が歩いていて、そこにもまた札束が挟み込まれていく。
そのステージに近寄った。
一人一人の出演者のパフォーマンスが終わり、それぞれが最高額を手渡した客の手を引いてステージに上げ、ステージ裏へ一緒に歩いていく。
僕は呆然とその光景を見ていた。
その、あまりにも露骨な売買の現場に僕は衝撃を受けた。
でも、初めて見たわけじゃない。
ある一人のスーツ姿の出演者は、
札束をポケットの中に詰め込まれて、
どの客を連れて行くか決めかねているようだった。
基本的に最高額を預けた客を連れて行くということになっているらしいが、選ぶのは出演者側で、必ずしも金額が判断基準になるわけではないのだろう。
「…」
そのスーツの男は、僕の方を見た。
目が合わないように観客の塊から少し離れた。
しかし、その出演者と目が合った。
その目で、僕のような学生がこんなところにいて、ステージを見ていると知られるのはとてもいけない事だと思った。
その人はステージを降りた。
そして、何故か僕に向かって来た。
「チップ、くれない?」
あ、そうか。
僕は今、嘘みたいな金額を持たされていたんだ。この人は、僕のお金が欲しかったのか。
ステージを見て、誰かにこの札束を渡す気にはなれなかった、この人に預けてしまおう。
先生はきっとそれで満足してくれる。
「…どうぞ」
その人は、あまりの金額に驚いた様子だった。
「半額でいいよ」
「え?」
その人は僕の手を取った。
僕はそのままステージ上に上げられ、
ステージ裏まで連れて行かれた。
観客がざわついていたのがわかった。