触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
全部決めるのはあんたじゃないのか
死ぬことがあんたの幸せなんじゃないのか
他人が幸せになる条件がないとあんたは死なないのか
それならなんであんたは死ぬんだ
死ぬ以外に選択肢があるなら
死を選ぶ決定的な理由は何だ
他人を不幸にするために死ぬのか
幸せにするために死ぬのか
自分を楽にするために死ぬのか
死ねば楽なのか
死ぬ苦しみは生きる苦しみより重くはないか
今日生きる苦しみより辛くはないか
あんたが死にたい理由は他人に左右されるのか
死にたいと思うのは他人のせいか
生きたいと思うのは自分のせいか
人に依存していきるとは依存して死ぬことだ
世界に自分一人しかいなかったとしても
あんたは死ぬのか、生きるのか
あんたは死にたいのか
一人になりたいだけなのか
誰かに慰めてほしいだけなのか
楽していたいだけなのか
苦しみたいだけなのか
俺は一度も答えが出なかった
出たと思ったら次の日には答えは変わって決まらなかった
多分明日になればあんたの答えも変わる
その答えが不確かなうちに死ぬのは邪道だ
でもそれも悪くはない
答えを探すのが嫌になったから、
それが答えでも構わない
だから死ぬか死なないか
決めるのはあんた自身だ
ご自由に決めて構わない
俺はあんたの人生にあんたが納得してるならそれで満足だ」
答えは明白だった
七瀬夕紀は道路を覗き込み身を乗り出した
「飛び降りた瞬間、後悔するんだと思います
今は飛び降りたくてしかたなくて
でもここから手を離した瞬間
離さなければよかったって思いながら落ちていって
泣いても叫んでも誰も助けてくれなくて
死にたくないって、その時やっと思うんですよね
わかってるのにどうしてこんなにこの下を覗いてしまうのかわからないんです
僕が死んだら誰か悲しんでくれるかな
きっとその人もすぐに忘れてしまって
僕の命日は多分、季節の変わり目程度に過ぎていくんでしょうね
僕の大切な人が亡くなってからしばらく経つけど
もうどんな声かどんな顔かどんな手か
わかりません
消えていくんです
僕もそんな風に多分消えていくんですね
どうせいつか消えるのになぜ
消えるのを怖がるんでしょうか
消えるまでの時間を先延ばしにして
何かいいことがありますか
もし僕に家族みたいな誰かがいたら
多分生きていく理由になるのかもしれないけど
僕にとっての家族は