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触って、七瀬。ー青い冬ー

第22章 白銀の砂


ただの仕事仲間に変わりはないし。
あの人の前だからああ言ったけど
俺はあんたにそれほど深く干渉するつもりはないよ
俺の目的は今のところ、桃屋の不信感を拭いたいってだけ。
…そういうことだから、あんたは大人しく寝てればいいよ」


紘はまるで別人のように冷めた口調で、
壁際に腰掛けて居眠りを始めた

「…は、はい?紘さん…?」


「…」

返事がない。眠ったようだ。


まず状況を整理したいのだが、
紘はそもそも家に来るまでこの調子だった、
しかし桃屋が現れると態度を変え、人相を変え、
気が強くてフレンドリーなお兄さんになり変わった

そして桃屋の監視下から離れるとまた元の
無関心、無表情、無神経な紘に戻った

不可解なのは何故この実験を受け入れたのか、だ

あれほど関わりたくないと言って、面倒臭いを挨拶代わりに言うような人間が。

ただあの夜紘が言った死に関する言葉の数々は僕に親近感を覚えさせ、一種の共感を得た

決して信用ならない人物ではないが、とうしても裏表があるのは疑わざるを得ない。

彼は何を望んでいるのだろう



時間が流れ、僕は読書を進めていた
早くも1日は終わりそうで、
何事もなく平穏な時間が過ぎた

時折、スマホの画面が明るくなって
香田から連絡が来るくらいが外部との接触だ


《高梨、店やめるってさ
連絡つかないし、どこにいるかもわかんねえ
大分まずいことになったかもな?
これで実は七瀬でした、ドッキリ大成功、なんて言ったらあの野郎……………死んだな、俺ら》

グッド!と親指を立てた絵文字。
いやどういうテンションなんだよ。


「はぁ…」


思わずため息が漏れる。
まさか、学校まで辞めるなんて誰が思いついただろう

僕はただ、ただ、…

どうしたかったのかよく分からない


とにかく何かでやり返さなければ気が晴れないと思ってやったはいいが、新しい人間として接されると
どうしても溢れ出た。

最初からやり直せたら、という願望が



ムシャクシャしてくる。
誰が悪かったのか知らないが、
僕だって高梨と幸せに結ばれてみたかった。

多分全部神様のせい。



時計は夜12時を指し、僕は手を組んで窓の方を向いた


組んだ手は額に当て、目を閉じた


「希望を持ち、あなたを愛し、あなたを信じます」


小さ過ぎて誰にも届かなかった

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