触って、七瀬。ー青い冬ー
第22章 白銀の砂
それこそ宇宙の中で歌っているような
音が誰にも伝わらない真空の中で
一体僕は何のために歌っているんだと
宇宙服の中に閉じ込められたまま
命綱もやがて切れ
宇宙の隅まで平行移動で飛ばされていくような
そしていつか酸素が絶えたら
僕が死んだのを誰も気づかず
苦しい息に、真空に喉を締められながら
「怒っているんじゃないけど
こんな夜中に弾かなくたっていいのに」
紘はまだ眠っているみたいに言った
「衝動が抑えられなくて…したいと思ったらそれをしないと眠れなくなって」
「……俺もそうだ」
紘は少し考えてから起き上がって
ピアノに寄り掛かった
「七瀬の音、不思議な感じする」
「不思議?」
「俺の気持ちをそのまま音楽にしたみたいな
すごく親近感が湧く音」
紘の目は冴え冴えとし、夜を感じさせなかった
「紘…兄さん、だからかな」
暖かい夜だった
突然風も止み、かわりに柔らかいレモンティーのようなほんのりとした甘い香りの風が頬になじんだ
「七瀬、あれは開けた?」
「あれって、桃屋さんがくれた巾着の」
「そう、多分それぞれ違うものが入ってるはず。
俺は開けたけど」
紘さんは何が入っていたのかは言わなかった
僕も気になったので、開けてみようと言って巾着袋を開けてみた
「…!」
巾着袋に詰め込まれていたのは、
大量の飴玉だった
赤、青、白、何色も混ざっている
「何が入ってた?」
「…これ、」
「それは、…どういう意味?」
「わかりません。あ、そっちのは?」
「俺のは」
紘の袋には、アイスピック、ガーゼ、電動歯ブラシ、イヤホン、油性ペン、蜂蜜…
「これ、非常用のセットか何か?」
紘が言って、僕は首を傾げるだけだった。
「七瀬、いい知らせ」
紘は、CDケースに入ったディスクを出した
「映画だ」
確かに、ディスクには
【Movie/vol.1/2019.11.25】と書いてあった。
どうせ2人とも眠れないし。
紘は言ってレコーダーに入れる。
「ま、待ってください」
「何?やっぱりもう寝るの」
「い、いや、それ白いディスクだったから…
何が入ってるかわからない…よ」
思い出したように語尾を変えたので
紘はおかしそうに首を振った
「ああ、もしかしたらホラー映画かもしれないし
ね」