触って、七瀬。ー青い冬ー
第22章 白銀の砂
「そういうんじゃなくて紘さん!」
紘は聞かずに再生ボタンを押してしまう
「あ」
「いいから、早く座りな」
最悪の事態を予想していたが僕の考えすぎだったようだ。流石の桃屋もそこまで鬼じゃなかった。
画面にはお馴染みの配給会社のロゴが浮かび上がった。普通の映画だ。
「…よかった」
「何が?」
僕は落ち着いて紘の隣に座る。
紘はシャンプーの匂いがして、真っ白でふわふわしたパジャマをゆるゆると着ていた。
「ぬいぐるみみたいで可愛いですね」
「…」
紘はむっとして僕を見た
「七瀬に言われたくない」
「怒ってるんですか?」
「怒ってないけど」
明らかに不機嫌そうだ
「可愛いって褒め言葉ですよ」
「…そうなの」
「そうです」
「可愛いって変な言葉」
「そうですか?」
映画が始まる。
画面は揺れている
砂嵐の演出
《お前は何者だ?》
突然、画面に表示された文字
《お前は何を隠している?》
《人を騙して生きていて苦しくないか?》
《何人の人を傷つけてきた?》
《お前が生きてきた意味は何だ?》
映画の内容はよく覚えていられない
本よりは、映像がはっきりとしていて
思い出しやすくはあるが
2時間以上の話をそんなに簡単に覚えていられるなら僕は多分天才
しかしこの映画は冒頭から僕の傷をえぐるような言葉をつらつらと投げかけるので、
もはや内容を忘れることはできなさそうだ
しかしその内容といえば、濡れ場、濡れ場、濡れ場の全く空っぽなものだった
ただその濡れ場が恐ろしいくらいリアルだった
私的に撮った動画が晒されているような。
最初の問い掛けは恐らく、浮気性な登場人物らに対して投げかけられたものだ
「…なんだったんだろう、意味がわからなかった」
「でもこれ、わざわざコピーして巾着袋に入れてあったんだから何か意図があったんですよね」
「さあ、わからない」
考えてみてもわからないままで、とりあえず寝ようかと画面を消そうとした時
《…まだ終わりではない》
「うわあああ!」
まるでこちらの行動を見ていたかのようなメッセージに、僕は飛び上がった
その拍子に紘に隠れて画面を見ないようにした
ああ、これじゃ今日は眠れない。
何だよこのホラー展開は…
「何?」