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触って、七瀬。ー青い冬ー

第22章 白銀の砂



その粉末の正体と、他の何かの正体を知るために
指先を舐めた

「…?」

味は、砂糖のようで何の変わった点はなかった

これをまるで毒薬のように扱っていた紘は
やはり何かを隠しているのではないか

しかし、これがもし本当に死に至る程のものならば

「…」

やはりこの粉だけでは何もわかる気がしない。
飴を一つ、頂いてしまおう


紘が投げた飴玉をまた拾う

「七瀬?」

「見てるだけです。少し手伝おうかと思って」

「そう。余計なことはしないように」

「分かってますよ」


知らぬ顔で飴玉をかすめ取り、洗面所で開けて口に入れた





「…これで全部」

コロン、コロン

飴玉は床に転がって音を立てた

外はまだ暗いが、夜明けもそう遠くない

「七瀬、…寝た?」

さっきまでそこにいた気がしていたのに、
今はどこにも見当たらない。

密室とはいえ、風呂や洗面所は付いているので
隠れられるとしたらそこだけだ。

一通りの選別は終わり、残りはあと数個の候補から課題だった石を取り出せばいいだけだ

これは多分、何かで割る、潰すなどして取り出すしかないのだろうが

何にしろ、人手が必要だ


「七瀬?」

洗面所の扉を開ける時、嫌な香りがした

実際には嫌な香りとは程遠く、
苺のような甘い香りだ

ただこれはあの強い薬品の特徴であって
この香りがする時は、大方。

「…七瀬?」

声をかけても返事は無く、
シャワーの音が聞こえるだけだった

七瀬夕紀の姿は見つからなかった


《全部無駄だったんだよ、イヴァン》


《分かっただろう?逃げるなんて馬鹿なことは考えるんじゃない。これが僕らの運命なんだよ》


《さあ、帰ろう。凍えて死んでしまうよ。
唇が青いよ。手先も凍りそうじゃないか。
温めてあげるから、帰ろうよ》



《お前達に恋をする資格などない》



「七瀬?」



「七瀬!」


姿がなかったのではなく、七瀬夕紀は風呂場で倒れていたのだった


シャワーを止めるが、七瀬夕紀に意識はないようだ

これは実験だの何だのと言っている場合ではない
と分かっていたが、実際これこそが実験の始まりだったのだと紘は知っていた

彼の母国語で悪態をつきながら、彼は裸の七瀬夕紀の体を持ち上げて風呂場から引き出した


甘い苺の香りは湯気と共に体内に侵入してくる

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