触って、七瀬。ー青い冬ー
第22章 白銀の砂
アレルギー、とも呼べるかもしれない
紘にあった特性はその薬品に対して体が異常に拒絶反応を起こすことで、その抗体反応に似た免疫の働きは彼の交感神経を過剰に興奮させる
深く息を吐きながら、滲み出る汗を拭った
七瀬夕紀の体をタオルで包み、ヒーターの前のソファに寝かせる
まるで昂った虎のように、喉の奥で込み上げる唸り声を堪える
七瀬夕紀が今ここにいること、紘がここにいることは決して偶然の積み重なりではない必然であった
なぜなら七瀬夕紀が生まれた理由も今まで生かされていた理由も、全て紘に帰するからだ
紘は七瀬夕紀が息をしていることを確かめると、
すぐに部屋の隅にうずくまって七瀬夕紀の放つ薫香から距離を取る
こうなることが予想できていなかった訳ではない
七瀬夕紀に渡された巾着袋の飴玉を見れば、
その薬品の混ざった代物だとわかった
紘自身に渡された巾着袋の中身を見れば、
紘の正気を失わせるための道具だと分かった
もちろん七瀬夕紀に実の事を話すわけもなく
殆どその道具のことを頭から離そうとして、現実的な対策として眠っているしかなかった
そうでなければ直ぐにでも…
首を振り、頭を抱えた
「…考えるな今は…
そうだ、早く見つければここを出られるんだ」
警察及び国家権力に関わる組織にお世話になることはできない身だった
身元確認も職務質問もされたことはないが
もしこの実験もとい事件が大事になれば
間違いなく身柄は拘束されるだろう
モデルという職業をやっておいて、と言われるかもしれないがこの仕事が立派なカモフラージュになっているはずだった
「全く…あの桃屋って奴は一体、何だ」
力づくで潰すにはアイスピックが適当だった
桃屋の渡した巾着袋に入っていたものだ
これがこの飴を割るためのものではなかったことも知ってはいるが
道具として使っておく
なるべく、飴玉の香りを吸い込まないように
鼻と口にタオルを押し当てる
しかし、時間と腕の力を使い果たして割った候補になっていた飴玉の中からは一つもそのキーストーンが見つからなかった。
「何故、」
早く出て七瀬夕紀の手当てができる場所へと思ったのに
「…まさか」
思い立って、七瀬夕紀の側に駆け寄った
「少し、見せてもらうね」
口を開かせると、口の中には確かにそれがあった