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触って、七瀬。ー青い冬ー

第22章 白銀の砂


口の中にある石は、指を入れて取った
わざわざアタリの飴を舐めるなんて

「…あんたは犬か」

呆れるような感情が湧きながら、
そういう野性的な部分は血が引き継いだものだと変に納得のいくところもある

七瀬夕紀はぼんやりと目を開けた
きっと体が薬に抵抗して熱を出すから体力が消耗しているはずだ

もし七瀬夕紀が紘のような体質でなければ。


「兄さん…」


水を汲んでこようと立った紘に声がかかる
足を止めるのを迷うほど、そんな呼び方をされたことが不思議で慣れなかった

しかし七瀬夕紀の方は何年も前から、
いや生まれた時からそう呼んでいたように言う

「側にいて」


紘の気持ちと裏腹に、七瀬夕紀は近づけと言う
それは悪魔の囁きと似た天使のような声

「七瀬、今は眠って…何も、言うな」

逃げるように言って、早く窓でも開けようと思った
でも窓は高くて手が届かなかった
開け方は分からず、他に換気する術もない

こんな人間と同じ空気を吸っていては、いつ体が限界を迎えるかわからない
七瀬夕紀に至っては命の危険すらあるというのに、それをさらに追い込むような状況は避けたかった

「本当の家族は、一緒に苦しんでくれるものかと」

そのような意味のことを途切れ途切れに言って
七瀬夕紀は口を閉ざした

「それは夢を見過ぎだ」

と言い返したのは、必ずしも本心ではない

「それなら、本当の家族とは思っていたよりも残酷だ。今と然程変わらない、ならば無いものと同じだ」

七瀬夕紀はまた途切れ途切れに言った
この少年はいつも悲観的になる思考の型にはまって
いつまでも下は下へと落ちていこうとする

だからそれは違うとも否定しきれずにいれば彼はまた下は下へと引きずられていく

「死ぬんでしょうか」

聞いたのは彼がそう思いたかったからだ

「かもしれない、だから黙って休んで」

そう言っても七瀬夕紀は紘を見た
七瀬夕紀は夢でも見ているように体を起こした

「今なら死ねる、…やっと死ねる気がする。
紘さん、今はどうですか。死にたいと思いませんか?今なら2人で幸せになれる。紘さんもその飴を舐めて、このまま眠っていれば…」

紘が何かいう前に、七瀬夕紀は紘の手から石を奪った

「何するの、七瀬」

「これは見つからなかったことにして
ここからは二度と出なければいい」

そして、
石は消えた


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