触って、七瀬。ー青い冬ー
第22章 白銀の砂
今、
石は七瀬夕紀の体の中にある
「何してる!」
紘は七瀬夕紀に飛びかかった
でももう遅い
七瀬夕紀は飲み込んでしまった
とうして早くその石を持ってドアを開いてしまわなかったのかと後悔したのを後の祭りと呼ぶ
「幸せにしてもらいたくて」
七瀬夕紀は今までにない笑顔で言った
朗らかで、鳥の囀りに似合う
「死ぬと幸せになるか!そんなこと
今はまだわからないのに!」
「これからわかります。やらずに後悔より、やって後悔という言葉を知ってますか?」
「それは生きていればこその話だ!」
「紘さんは一緒に死んでくれないんですか、
前に誘ってくれたのはあなたなのに」
「あれは、…気分が落ち込んだ時によく考える癖があるだけなんだ。本気じゃなかった!」
七瀬夕紀はしばらくしてから、笑った
「最低だよ、そんなの」
紘は事実を受け入れるしかなかった
確かに紘は七瀬夕紀を自殺に追い込んだかもしれない
自殺を肯定したかもしれない、いやしたのだ
実際に自分も死のうと、死ぬ寸前の瀬戸際まで
足を何度も踏み入れては引っ込めた
その経験は生を確認して生きるための手段だった
だから七瀬夕紀もそうだと思った
自殺の寸前で踏みとどまり続けて、
なんとか片足立ちでも生き延びていけると思った
生き延びていく意味は知らなかった
でも七瀬夕紀を突き落としてしまうのは恐ろしかったのが事実で、だからこの間七瀬夕紀が死なないでくれてよかったと内心思った
「悪かったよ」
「いいですよ、どうせ僕は死ぬから」
確かに、このままだと七瀬夕紀は死ぬ
そして紘自身も、食料が尽きれば死ぬ
他にも選択肢はあるかもしれない、
でもその選択肢を桃屋が残してくれているとは考えにくい
あの男が知っていることは、紘が人生をかけて隠していくべき事だった
「…わかった」
紘は何を納得したのか、徐に床に散らばった飴玉の大きいかけらを口に投げ入れた
「俺はこれで十分、反応するから」
七瀬夕紀は苦しげに息を吐いた
紘は七瀬夕紀をそっと抱きしめた
「俺達は家族。
七瀬が生まれてきたことに感謝してる。
これからもそれは変わらない。永遠に一緒にいる」
紘は息も絶え絶えに言った
七瀬夕紀は嬉しそうに顔を歪めた
「もっと早く会えていれば良かった」
紘が言いながら、息を荒くした