触って、七瀬。ー青い冬ー
第23章 舞姫の玉章
最初は気がつかなかった
その中で自分は一番幼かったし、その類の欲求に一番鈍かったのだと思う
ただし体が制御を失うような状況にあったのは皆同じであった
与えられる簡素な食事、足かせに繋がる鉛のような重り、毎日同じ椅子に座り、同じ時間に働き、同じ時間に眠り、退屈な日々を続けていたのだから
心身のストレスなのか抑圧による反動なのか、無垢な子供から反発を覚えた青年に変わりつつあった
少年達はまず喧嘩を始め衝突した
自分は、事実上兄弟である彼らが険悪な雰囲気に飲み込まれていくのを不安に思い泣き出すこともしばしばあったが、それも叩かれて口を閉じるしかなかった
そしてある時、張り詰めた糸を切ってしまったのは他でもいい自分だった
年末年始、家族全員は大広間に解放されて
数少ない顔合わせの時間に心身を癒した
その時気がついたのは、この家には女児がほとんどいないということだった
いや、実際にはいたのだが父は決して、その顔合わせの宴会でさぇも男女を交えることを許さなかった
その宴会に集まったのは約20人程度だ
年々顔合わせを重ね、ルームメイトが変化していくことでこの少年達が必ずしも家族ではないということも漠然と気がつくようになっていた
それでも自分の家族意識が消えなかったのは、
父の言葉と儀式のせいだったのだろう
人間は皆神の子だという。
《今年一年、よく精進して私達は神から富を与えられた。素晴らしい働きだった。区切りであるこの宴にふさわしい褒美を受け取りなさい》
父は、蜂蜜の色をした飴玉を皆に配った
自分に与えられるのは最後になるようだったので、父が自分の手に飴玉を手渡してくれるのを虎視眈々と待ち構えていたのだが、父は自分を見た途端に
困った顔をした
《…ああ、イヴァン。君にはあげられない》
何故なのか、と聞くと父は私の腕を指差した
《注射の跡を見なさい。君は昔から体が弱くて、
他の子供よりも耐性が弱かった。それは成長と共に強くなるはずだと思っていたが、今の君にはやはりまだ早いようだね》
父はそう言って、私にだけくれなかった
《まあ、そう落ち込むな。聞いただろ?
大人になればくれるのさ》
兄弟は言ったが、ある一定の年齢になればこの家からは追い出されるようだと勘付いていた私には
いくらか褒美が一生もらえないままになってしまうという悔しさを拭えなかった