触って、七瀬。ー青い冬ー
第23章 舞姫の玉章
《兄さんのをくれよ》
そう、これが最も言ってはいけない言葉だったようである
それに温和な性格の兄は宥めようと笑うが
攻撃的な兄は歯を剥いて私を責めた
《おい、兄に向かってそんなことを言うのは父さんの教えに背くことになるぞ》
《そうだ、父さんはお前の体のことを思って与えなかったんだ。有り難く思え》
《見ろ、注射の跡がそれほどはっきり残っているのはお前だけだ。父さんの言う通り、この褒美はお前には少し強いんだ》
強い、とはどういう意味かと聞いても
彼らもよくわからないようであった
《そう、わかったよ》
私は諦めたふりをして宴会から早足で抜けた
みんなが元の部屋に戻って、騒ぎ疲れて眠った頃
私は目を開き、月明かりだけを頼りに部屋の中を
眠る兄の足を踏まぬようにして探し回った
必ず、どこかにあの宝石が眠っている
それはあっけなく、床に転がっていた
この後、殴られ、蹴られ、血を飲むことになろうが構わない。この先、一度もその味を知らないまま、褒美も得られぬままレース編みの機械として使い捨てられるならいっそ兄に殴り殺されたほうがましとさえ思った上での犯行だった。
宝石は蜜のように輝いていた
迷いながら、その宝石が放つ甘く官能的な香りに誘われて舌の上に乗せた
感動的な美味さだった
生まれて初めて、食べ物を美味いと思った
口の中で溶け出す甘い蜜は、じんわりと体に染み込んだ。舌の上で転がしながら、とろける甘さに笑みが溢れた
じわりじわりと終わらない甘さが溶け出して、
永遠の幸福を手に入れたような感覚だった
ただ、その時には体が容量を超えた供給に悲鳴を上げていてすぐに意識は消えてしまった
「…イヴァン」
兄は私のことを哀れむような目で見た
「に、兄さん…、助けて、どうしようっ…ぅう」
その宝石が自分にとっては毒であった
兄にとっては甘美な蜜だった
だから、私は恐ろしくて腫れてしまったそこを手で抑えて隠した
こんなことになるとは想像もできず、
きっとここを切り落とさなければいけなくなると思った
そうなれば排泄はままならず、
人間としてあるべき器官を失う
「兄さん…どうしよう、おかしくなっちゃったんだ…死んじゃうんだっ!」
私は無知だったのだから、兄はもう少し丁寧に説明してくれて構わなかったのだが