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触って、七瀬。ー青い冬ー

第23章 舞姫の玉章



「来い」

その兄は日本人に似ていたと思う
七瀬夕紀ほどの容姿ではなかったが、
清楚な顔をした真面目そうな兄で他の獣のような体格の兄と比べれば人当たりも良く暴動も起こさず
黙って壁の花になるのが得意だった

「どこに?…兄さん、待ってよ」

その日だけは、私たちの足や手に拘束する鎖はなかったので体が軽かった

「し、話すな」

この日系の兄がこの部屋で一番器用だった
裁縫も一番丁寧でほつれがない

しかし、背が低く髪は黒く、
その存在は兄の中に混ざると異質だった
口数は少なくほとんど言葉を話さなかった

なぜなのか考えてもみなかったが
今思えばそれも父が拾ってきた他所の子供だったんだろう

《サハル》


それがその兄の名前だった。
意味は日本語で、砂糖。
由来は知らない

「父さん、見つからない所、隠れよう」

「でも、これ…治らないの。隠せないよ」


サハルに手を引かれ、廊下を裸足のまま歩いた

父の同伴なしで部屋を出たことがなかった
とても不安だった

「父さんに見つかるよ…」

兄はあたりを見回して人目がないことを確認した

「入れ」

サハルは家の中をよく知っていた
おそらく父のお気に入りだったから特別な待遇を受けたのかもしれない

押し込まれたのは狭い倉庫だった
ほうきやバケツが並び、人が数人入れるだけの小さな収納だった

「なんで、ここ?」

「ここしかない」

兄は言うと、扉を閉めた
中に電気などもなく、扉で光は遮られ
真っ暗になった

サハルは忠告した

「声、出さない」

見えないと分かっていたのに、無言でうなづいた
恐らく痛い注射などを秘密裏にやってくれるのだと思った
 

サハルの手が、私の半ズボンを下ろした
冷たい手は湿っていた
肌に触れて背筋が凍った

「教える」

冷たい手は腫れた硬いところを握った

「こう、触れ」

手は患部を荒く擦った
何が起こっているのか分からず、
ただ驚いた

「…ぁ、」

尿を出す以外に触ったことがない
擦るとじんじん痺れてくすぐったいような
むず痒くて粘膜に触れるとぴりりと痛い

「ん…っ、!はぁ、はぁ…」

何かわからないが体が熱くなってきた

「出るか」

サハルは聞いた

「はっ…はぁ…な、…何が…?」

「分からない、白い水」

サハルは小さな声で言った

「口に出せ」

何を言っている?

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