触って、七瀬。ー青い冬ー
第23章 舞姫の玉章
他の兄達だ
「…イニシエーション」
サハルはそれだけ言って逃げようとした
「おいおい、待てサハル。“それ”は禁則事項だぞ。
父さんに見つかったら、連帯責任で俺達全員の報酬がお預けになる。おい、わかるか?聞けよチビ!」
「…がクソでけぇんだよ」
「ああ?なんだ?何語だ?宇宙語か?ネズミ語か!チビにはその方が似合うがな」
サハルは唇を拭った
「…イヴァン、お前の飴、取った」
サハルに威張っていた側の熊のような兄は古びたシャツのポケットを確認した
「…な、嘘だろ?…おい、おいおいおい」
熊が絶望的な顔で私を見た
「…ごめんなさい」
「ゆ…許さないぞイヴァン、なんてことをしてくれる!俺がこの一年、何のために働いてきたかっ…!」
「ごめんなさいっ、ごめんなさい!」
熊は私の胸ぐらを掴み上げた
サハルより小さい私は恐らくアリのような弱さだった
「アイ、それ離せ」
「離すわけがあるか、それともお前を代わりに殴ってやるか?」
サハルはポッケから、自分の飴を出した
「やる」
その行動に兄達は皆口を開けて呆然とした
「正気か…?」
「いらない」
ごく、とその場の全員が唾を飲む音がした
「そうかそうか!ならもらってやろう」
「おい待て!俺も飴が無くなってたんだ、俺にくれ」
「嘘だ、お前はさっき自分で食ったよな?
証拠に体が熱い」
「言いがかりだな!お前が俺のを取ったんだろ」
それぞれに言い合いを始め、ついに殴り合いの乱闘に発展しかけた
サハルは私をかばってくれた
「お前達」
その最中、ついに父に見つかった
「こんな遅くに騒ぎを起こすなど
…私の教えに背いたな」
全員の体が固まった
「2562、5856、4525、7785、3314、8807、サハル、イヴァン
全員私の書斎に来なさい」
「父さん、ごめんなさい。許してください。
お願いします、お願いです」
「そう怖がるな…動かないんだよ、少しの辛抱だ」
「ぐっ、あああっ」
書斎と呼ばれる場所は、実験室だった
見ない椅子に縛りつけられ、処刑の時間を待っていた
「さあ、サハル、イヴァン、お前達には特別良いものを試してやろう」
他の兄達は薬品を打たれ、力の抜けた体で椅子に縛りつけられたまま動かなくなった
「お前達はよく似ている」