触って、七瀬。ー青い冬ー
第5章 葉山秋人の背徳
私は彼が小さい頃、おそらく小学生にもならない頃だ。
禁忌を犯した。
彼の柔らかい手に触れ、それから少しずつ身体の滑らかさを確かめるようにじゃれ合った。
彼はその時はまだ、気づいていなかっただろう。私の不埒な行為の本性を。
私は決して、子供に対して欲情するような趣味はなかった。断じてなかった。
そもそも同性に対して、ということも。
それでもどうしてだろう。
夕紀はいつも私の中の未知なる領域を弄るように存在していた。
年齢に似合わない大人しさと物分かりの良さが、私に彼が幼い子供であるということを忘れさせたのかもしれない。
もしくは、彼の身体のあまりに敏感なことが、私をそのような行為に走らせたのかもしれない。
彼は少し手が触れたり、肩に触れたりするだけで居心地が悪そうに身体をよじらせた。
それで思ってしまった。
もっと触れたらどんな反応を見せてくれるだろうか、と。
それは全く不純なものではなくて、単なる好奇心だったし、心を開いてくれていた夕紀とじゃれ合って触れ合うことに誰も文句を言わなかっただろう。
そして、そんなじゃれ合いはいつしか私の性的な欲求をくすぐるようになった。
彼に触れたいという気持ちは、自分でも止められなくなっていた。
誰にも理解できるはずがない。
いくらでも私を非難してもらって構わない。子供に欲情するなど、汚らわしい、狂っていると。
自分でも分かっていた。
単なるじゃれ合いの度を過ぎていることも。
それでも彼の身体を見ると、その切ない表情を見ると、どうしてか私は触れずにはいられなかった。
誰にもわかるはずがない。この苦しみを。
彼のその美しい威容を目の当たりにし、
彼の滑らかできめ細やかな肌、甘い声を知ったものにしかわからない。
誰にも分かってたまるか。
彼の魅力に取り憑かれた私は、
もはや彼の呪縛から逃れることはできなかった。
どれだけ怖かったか、恐ろしかったか。
それを感じさせる表情すら見せずに、夕紀はただ私の手を受け入れた。
彼は良い子でいるのが上手だった。
それに甘えた私は、もう彼の拠り所にはなれないのだろう。
それでも彼は私を先生と呼び続けた。
そして彼はようやく、私を突き放すことを覚えたのだ。
私はようやくこの、背徳に浸る快楽から抜け出すことができるだろうと思った。