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触って、七瀬。ー青い冬ー

第5章 葉山秋人の背徳


「何言ってるんだ」

夕紀は力なく笑った。

「僕、お酒飲みました。いっぱい」

私は嘘だとは思わなかった。
背中に乗せた時、酒の匂いがした。

「なんでそんなこと」

「僕ってなんでこんなに弱いのかな。
もっと強かったら、突き放せたのかな。
嫌だってこと、わかってもらえたのかな」

夕紀は無理やり飲まされたらしい。
今までも何度か、いじめを受けているのではないかと思われることがあった。

顔や身体に不自然な傷があったり、
目を泣きはらしたような跡があったり。

しかし、その夕紀の言葉は私に向けられているように思えてしまった。

夕紀はきちんと嫌だという事が苦手だった。きっと、相手を傷つけるのが怖いからだ。
そんな優しさに漬け込んで、私はいいように彼を利用した。

「…せんせー」


夕紀は涙ぐんだ目で私を見た。

私はおかしくなってしまったようだった。
彼の惚けた表情は私をかき立てた。

こんなに弱っている彼を襲ったりしたら、
私は完全に犯罪者だ。

でも、私はどうしても彼に触れたいと思った。彼の鳴く声がまた聞きたいと思った。

真っ白な肌を汚したいと思った。

私はもう、性欲を抑えきれなかった。
触ってはいけないという自分の声が、さらに身体を疼かせた。

夕紀はまた口を開いた。

「せんせー、僕はせんせーが好きです。
…嫌なこともあったけど、それでもせんせーだけは僕を見ていてくれたから。」

私は拳を握りしめた。
私をこれ以上弄んでどうしたいんだ、君は。

「母も父も、もう僕を見てくれない。
友達もいないし、いるのは僕をいじめてくる奴らだけ。」

夕紀の制服ははだけていた。
ベルトもきちんとされていなかった。

酒を飲まされたのには理由があるのだろう。きっと、身体で遊ばれたに違いない。
こんなに綺麗な身体だ。目をつけられても不思議じゃない。

そう納得した上で、猛烈に腹が立った。

誰がこの子の身体を触ったんだ、と。

自分のしてきたことは棚に上げて、
そいつを殴りたいと思った。

夕紀はその時、意識があったのだろうか。

「先生、僕は、汚れてませんよね。」

夕紀は覚えていたのだろうか。

「…僕はこんな自分が嫌いで、
…全部知ってる自分が嫌いで、
弱い自分が、愛されない自分が嫌いで、
…苦しいんです。
なんでこんな風に泣くしかできないのか…」

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