触って、七瀬。ー青い冬ー
第5章 葉山秋人の背徳
僕は夕紀の口を塞いだ。
夕紀は驚かなかった。
だから、また唇を合わせた。
「…せんせ…ん…」
夕紀の唇は柔らかくて心地よかった。
もっと、と思った時、最後の理性が私を引き止めた。
「…ごめん」
私は一線を越えてしまった。
これ以上、何かをしてはいけない。
彼に触れてはいけない。
そう思って部屋から出ようとした時、彼は言った。
「先生、もう僕は要りませんか」
夕紀の声があまりにはっきりしていて、驚いた。酒に酔っているようには聞こえなかった。
「こんな、惨めな僕はもう要りませんか」
夕紀は泣いていた。
「君は何もわかっていないね」
私が大人しく身を引こうとしているところを、わざわざ君は引き止めてしまった。
私は君が欲しくてたまらないのに、
いらないのか、と煽るように聞く。
「先生、僕は先生がわかりません。
僕は先生のおもちゃですか。」
「…私も君がわからないよ」
「僕は先生のせいで汚れました。
先生は僕を気持ちよくして、そのせいで僕はそれに夢中になって…全部先生のせいです。
先生があんなことをしなければ、
こんなに苦しまないで、普通に、男らしく…あいつらとも仲良くできてたかもしれないのに」
私の中の、なにかの糸が切れたように思えた。
私はジャケットを脱ぎ、ワイシャツの袖をまくった。ネクタイを外した。
夕紀の横に手をついた。
夕紀は私を見上げていた。
「先生」
「…何も言うな」
「僕をいじめて下さい」
私は耳を疑った。
「君は自分が何を言ってるか…」
「先生、全部忘れたいんです。
次に目を覚ます時には何も覚えていないように、僕の中からあいつらの記憶を消して下さい。」
「私の記憶が残るだろう」
「その方が良い。先生にされる方が…ん」
私はまた唇を合わせた。
今日はもう容赦なんてしてやらない。
夕紀がやれと言ったのだ。
それが言い訳だということは重々わかっている。でも、この状況でその言い訳を利用する以外、私には選択肢がなかった。
「ん…はぁ、ん…」
夕紀は唇が離れる度に熱い息を吐いた。
「せんせ、苦し…ん…」
「いじめて欲しいんだろ?夕紀」
「…はぁっ…ん」
夕紀の口に親指を入れると、夕紀はそれを咥えた。
「下手くそ」
そういうと、夕紀はむっとした。
「だって」
「教えてやるよ」