触って、七瀬。ー青い冬ー
第6章 寒空の吸殻
「先生は僕に教えました。
子供だった僕に快感を覚えさせた」
先生はうなづいた。
「君は可愛かったよ」
先生は僕を見てため息をついた。
「犯罪ですよ」
「そうだ。罪を犯してでも君に触りたいと思ったんだ。君の罪は重いよ」
先生はまた煙を吸った。
「先生は僕を子供じゃなくしたんです。
だから、僕は大人がもっと嫌いになったし、男も女も嫌いになったし、自分が大嫌いになった」
先生は何を考えているのだろう。
黙ったまま聞いていた。
「全部が不純なんだって気づいてしまったんですよ。先生のせいで」
「それで?」
先生は面白そうに聞いていた。
僕は先生を責めるつもりだったのに、
全く応えていないじゃないか。
「だから好きな子もできなかったし、
女子を見て興奮もしなかった。
女の子には良い思い出もなかったし」
サキちゃんのいったことは未だによくわからない。僕は男も女も理解できない。
じゃあ僕は何なんだ。
「つまり、私のせいで君はゲイになったって?」
先生は笑った。
「ゲイじゃありません」
僕は恥ずかしくなった。
…僕はゲイじゃない。
高梨は友達だ…
「じゃあ何なんだい」
僕はその質問を何度も自分に聞いた。
でも、答えが出たことはなかった。
「…とにかく、先生が僕を利用したことが原因なんです」
冷たい風に冷やされていった。
月が傾いていく。
「たしかに、私はしてはいけないことをした。それは謝る。申し訳なかった。
君に手を出したのは、間違いだった」
先生は煙草を吸うと、地面に落とした。
「でも、大人に教えられなくたって、子供はオナニーをする。性感帯があるんだから、当たり前だ。不純だからじゃないだろう?生理現象だ。生命の神秘だよ」
先生は煙草を革靴の底で踏んだ。
「だけど、僕のはそんな可愛いものじゃなかったんですよ」
言ってから、恥ずかしくなった。
先生は絶対にからかうだろうと思った。
「君は可愛かったよ。可愛い声で鳴いた」
僕の予想よりもひどい返事だ。
「先生、真面目に聞いてもらえませんか。
僕は先生のせいで人生が狂ったって言ってるんです」