触って、七瀬。ー青い冬ー
第6章 寒空の吸殻
……
「どうしよう…どうすればいい…」
次の日の夜。
母が帰ってくる。
母は昨日、警察に行っていたそうだ。
「まず…まずは…」
なによりもまず…
違う、そんなことはどうでもいい。
まず、先生は無理やりしたんじゃないと。
そう言わなければいけない。
…先生は取り調べを受けるのだろうか。
だとしたら、全て…
「嫌だ…」
僕は嫌でも気づかされる。
先生は無理やりしたんじゃない。
僕は受け入れたんだ。
嫌だと思わなかった。
僕は望んでいた。
「どうしよう…どうすれば…」
ぷるるる…ぷるるる
突然なった音に震えてから、それがスマホの音だと気がついた。
《高梨》
手が震えた。
きっと、今日学校を休んだからだ。
でも、それを手には取れなかった。
僕は全てを告白することになる。
そんなこと、今はできない。
全て失うことになる。
先生を失って、高梨も失うなんて、
僕には耐えられない。
「高梨…」
でも、その声を聞けば少しは落ち着ける気がした。
何か変わるんじゃないかと、藁にもすがる思いで電話を取った。
「は、はい…」
“ 七瀬? ”
「うん、僕、だけど」
“ 大丈夫?風邪ひいたか ”
「あー…、そう。ちょっと気分悪くて」
“ 嘘下手くそか ”
「本当だよ」
“ …確かにちょっと具合悪そうだな ”
「…」
“ 見舞い行ってやるよ ”
「いい!いいから!」
“ 遠慮すんなよ。別に遠くもないし ”
「来なくていい!」
“ 何でそんな必死なんだよ ”
「いや…うつるから…」
“ バカにはうつんねぇよ ”
「いや、本当に!」
“ じゃ、行くわ ”
ツー、ツー…
「本当に馬鹿かあいつ!!」
スマホを投げつけた。
…って、高梨は悪くない。
高梨は面倒見がいいだけだ。
こっちの都合が悪いだけだ。
「いや、でも、来られたところで…」
母だけじゃない。
高梨まで…
「どうしよう…」
どちらにしろ、事件になってしまった以上、話さなくてはいけない。
頭を抱えても何も出てこなかった。
《真実を話すしかない》
頭の中に浮かぶのはそればかりだった。
全部話すなんてできない。
でも、他に何をすれば先生は許される?