触って、七瀬。ー青い冬ー
第6章 寒空の吸殻
…
カンカン
身体が動かない。
カンカン
誰だ。誰もこないでくれ。
僕に話すことなどない。
カンカンカン
「…はい」
このまま引きこもって誰にも会わなければ、全て解決するのだろうか…
何もなかったことにはできないのか。
僕は重い体を引きずって扉を開けた。
「…はい」
「七瀬?」
目の前に肩。
見上げると、見慣れた顔だった。
「高梨か…」
僕はとても安心した。
「せっかく来たんだから喜べよ」
高梨は扉を抑えて、ズカズカと家に踏み込んだ。
「ちょ、高梨!」
「お邪魔しまーす」
高梨は遠慮がない。
「お前の部屋どこ?」
「来なくていいから」
「なるほどな」
高梨は階段の先を見上げると、二階に上がってしまった。
「おい高梨!」
急いで階段を上り、高梨を止める。
「おっと」
「勝手に入んなって!」
「お見舞いに来たんだから部屋に行かなくてどうするんだよ」
「そんな決まりないから!」
高梨の道を塞いでも、軽々と押しのけられてしまう。
「ある」
高梨は僕の部屋を開け、ズカズカと入った。
「いやー、広いなお前ん家」
高梨は僕のベッドに腰をかけた。
「はぁ…もう好きにしろよ」
「七瀬、何があった?」
高梨は僕を見ていった。
高梨がいつになく真剣な表情だった。
僕は、窮地に追い込まれていたのを思い出した。
「…なんでもないよ」
「七瀬」
高梨はため息をついて、それだけいって僕を見る。
「高梨に話すことじゃない」
母はいつ来るだろう。
僕を見て何を言うだろう。
父はどうなるのだろう。
先生は本当に無事なのか。
「何だよそれ」
高梨は不満そうに言った。
「…本当に、高梨は関わらない方がいい」
僕は、高梨がどうすればこの場からいなくなってくれるか考えた。
「関わって欲しくない。何も知って欲しくない」
もし母が帰ってきて、僕を問い詰めたりして、僕は話さざるを得なくなって、それを高梨が聞いてしまったら…
「へー、そう」
高梨はそういうと、手にもっていた鞄に手を入れた。
「そんなに俺に出ていってほしい?」
高梨にこんなことを言うことがあるなんて、僕は一体どうしてこう運が悪いんだろう。
「…今だけは本当に」