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触って、七瀬。ー青い冬ー

第6章 寒空の吸殻


「わかった」

高梨は鞄からスマホを取り出した。

「じゃあ、アレ流すわ」

高梨はスマホをいじり始めた。

「アレ?」


高梨がなにかを押すと、それは流れた。


一気に顔が熱くなった。

「やめろ!止めろ!!」

保健室の、アレだった。
高梨が僕の上に覆いかぶさったあの光景を思い出して、恥ずかしくなった。

「はい、止めます」

高梨は嬉しそうに言った。

「じゃあ、聞かせてもらえるかな?」

高梨は僕を見た。

「高梨、今回は本当に、冗談抜きで、
話せないよ」

高梨はまだ僕を見ていた。

「最初から冗談だとは思ってない」

高梨はスマホをベッドの上に放り投げた。

「お前が辛そうだから、聞いてやるって言ってんの」

高梨はいつでも優しかった。
でも、それが僕には辛かった。

「言ったら、全部壊れるよ。
…僕のこと嫌いになるよ」

僕は嫌われたくなかった。
それに、先生としたことは、普通恋人同士がすることで、僕は先生を好きだったわけじゃない。

先生はそうだったかもしれない。

でも、僕はただ、先生のくれる行為が欲しかった。僕は先生を利用していた。

「それはそれでいいんじゃねぇの?
お前が嫌われるべき人間なら、早いうちに嫌っておいた方がいい。信じさせておいて、後から裏切られる方がムカつく」

高梨は嘘をつかない。
言いたい事はなんでも言う。

「…じゃあ、高梨ともこれで最後か…」

僕は何だか、すごく長い時間を過ごしたような気がした。

僕は高梨と会って、まだ2ヶ月だ。

それなのに、こんなに寂しく感じる。

僕は別れに弱いんだな、と気がついた。

先生の行為も許してしまったし、
香田のことも許してしまった。
全部、《最後だから》と言って。

僕は、人と離れるのが怖い。

サキちゃんが僕を離れたように、
人は僕を離れていく。
両親はもともと離れていた。


僕には誰もいなくなる。
唯一の親友すら失う。

僕はこれから、どこへ逃げれば生きていけるのだろう。


「父が人を殴ったんだ」


「その被害者は…僕のピアノの先生で、」

高梨はじっと僕を見ていた。

僕は口を動かそうと思った。
でも、僕はそれを言ってしまったら、
高梨がすぐに僕を突き放すような気がした。

「…それで…」

高梨はまだ僕をじっと見ていた。

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