触って、七瀬。ー青い冬ー
第6章 寒空の吸殻
「先生は、」
高梨の視線は僕をずっと見ていた。
…高梨が全てを聞き、青ざめた顔で部屋を出ていった。
僕は一人、部屋の中で泣いているしかなかった。誰一人味方がいなくなった…
「七瀬」
その声で僕は気がついた。
その想像は、僕の首を絞めるようだった。
「ぁ…」
僕の喉がかすれた。
なにか言おうとした。
でも、言葉が出なかった。
高梨の、失望したような、
僕を侮蔑するような表情。
その想像の世界が現実に今、変わってしまう。その先を言えば、高梨は消える。
僕の世界は真っ暗になる。
僕の人生に、希望という文字はなくなる。
僕は一生、一人だ。
「先生がどうした」
「せんせ…が、僕が…」
僕の膝が折れた。
なにも言えるはずがない。
何も、告白できるはずがない。
自ら光を断つなど。
そんな勇気は僕にない。
「七瀬」
「無理だ…言えない…」
「七瀬」
「高梨、もう何も言わないで、僕を殴って」
「七瀬?」
「僕は言えないんだ…高梨が…
高梨がいなくなるのが怖い…、
怖くて言えないんだ。
僕には高梨しかいない…」
「七瀬」
「両親は僕を守ったりしない…
そもそも、関心がないんだ。
事実を聞いたら僕を追い出す。
それに、先生もきっと親戚から縁を切られる。そして、僕も同じだ。
両親が言えば、親戚は従う。」
「七瀬」
「ねぇ高梨。僕はもう生きていけないんだよ」
七瀬は笑っていた。
「もう終わったんだ。
先生は全てを言うしかない。
それに、僕も事実を言うしかない。
…そして、みんな去って行くんだ。
高梨もそうだ。
クラスのみんなもそうだ。
僕はひとりぼっち…」
「俺は離れない」
高梨は言った。
「お前が何を言っても離れない」
「高梨…無責任なこと言うなよ」
七瀬はまだ笑っていた。
「俺が冗談言ってると思うか?七瀬」
「知らないから言えるんだよ」
七瀬は首を振った。
「知らないから、僕達は友達でいられたんだよ。高梨」
高梨は黙った。
「僕と先生はね」
七瀬は笑った。
「キスしたんだよ」
「…なんだよ、別に」
「先生は男だよ。15歳は離れてる」
高梨は黙った。
僕はそれでタガが外れたみたいに、
話し出した。